SAP、基幹システムクラウド
失敗させないSAP BASIS作業5ステップ|クラウド移行における注意点
SAP ERP 6.0の保守サポート期限終了にあわせ、今後に向けてどのような取り組みを実施していけばよいか多くの企業が頭を悩ませている。
今後の移行に向けて有効な選択肢の1つが、SAP ERPのバージョン6.0のまま暫定的に利用し続け、ハードウェアやOSのEOSL(保守サポート期限終了)対応のためにまず基盤から更改していくというアプローチだ。
ただ、この場合は意外にもSAP BASISの部分の作業でやるべきことが多く、気をつけるべきポイントもいくつかある。
そこで本書では、SAP S/4HANA化を見据えたSAP BASIS作業のステップを整理する。
▼ 目次
・現実的な選択肢「SAP S/4HANA化を見据えたインフラ移行に向けたSAP BASIS作業」
・「準備」と「移行検証」にて気をつけるべきポイント
・「テスト」と「移行リハーサル」、「本番移行」にて気をつけるべきポイント
・クラウド基盤「CUVICmc2」を活用してSAP S/4HANA化を目指す
1. 現実的な選択肢「SAP S/4HANA化を見据えたインフラ移行に向けたSAP BASIS作業」
「2025年問題」などと呼ばれているように、SAP ERP 6.0の保守サポート期限終了後の対応をどうすべきか多くの企業が悩んでいる。
SAP社はSAP S/4HANAへの移行を推奨しているが、メインストリームメンテナンス期限が2027年まで延長され、オプションの延長保守サービスも2030年末まで提供されるようになったこともあり、まだ多くのシステムが旧来のまま残されているのが現状だ。
もっとも理想的には、速やかにSAP S/4HANAへの移行プランを立て、現実的に実施できる施策を戦略的に実行していくことが望まれる。だが現時点で多くの企業にとっての選択肢の1つが、2027年までSAP ERP 6.0のまま暫定的に利用し続けるというものだ。ただ、2027年まで利用し続けるためには、いくつかの注意点がある。
1つに、延長対象となるSAP ERPはエンハンスメントパッケージ(EhP)のバージョンによって制限があること。もう1つは、ハードウェア、OS、ミドルウェアはSAPによるサポートの対象外であるため、それぞれのEOSL対応を行う必要があることだ。このタイミングで基盤をクラウド化するのも有効な選択肢となるだろう。
そこではSAP BASIS領域での作業が中心となる。このクラウド移行やSAP ERP6.0の暫定利用に向けたSAP BASISの作業(以下、BASIS作業と呼ぶ)は、大きく「準備」「移行検証」「テスト」「移行リハーサル」「本番移行」という5つのステップに分けられる。
図 1. SAP ERPのバージョンはそのままでIT基盤の更改を行う際に必要となるタスク概要
3ランドスケープ構成(開発・検証・本番)で各1インスタンスを稼働させている環境で、移行にかかる期間は最低でも全体でおよそ6カ月以上かかる想定だ。この期間に、SAP BASISを中心に、アプリ、インフラも含めて必要な移行作業を実施していくことになる。以下、各ステップにて注意するべきポイントを整理していきたい。
2. 「準備」と「移行検証」にて気をつけるべきポイント
BASIS作業の以下のステップで気を付けるべきポイントについて解説する。
2-1. 準備
最初の「①準備」における最大のポイントは「現行環境の設計資料を最新にしておくこと」だ。
設計資料が古いため本番機に都度アクセスして設定を確認するのが当たり前になると、事故が起こるリスクが高まる。設計資料が間違っていることに気づかず、検証機の構築後に間違いが発覚することも多い。最悪のケースはインスタンスの作り直しとなり、スケジュールに大きく影響を及ぼしてしまう。
また「システム連携を正確に把握すること」もポイントだ。システム連携を見落としていたことによってテスト漏れが起こり、本番移行後に障害が発覚するというケースも意外に多い。
2-2. 移行検証
「②移行検証」では「余裕を持ったスケジュールをひくこと」が重要となる。
Software Provisioning Manager(SWPM)などの移行ツールが、バグやバージョンの差異によって動作不良を起こすことはよくある。その調査、対応をはじめから見越したスケジュールにしておくとよい。
また「可能な限り現・新ともに本番環境を利用すること」も重要だ。
これにより、開発・検証機にはない本番機固有の設定を考慮した移行手順を早い段階で洗い出すことができる。また、本番機のデータを使うことで、より正しい移行時間の測定が可能になる。これらは、精緻な本番移行計画を立てるうえで重要なインプットとなる。
3. 「テスト」と「移行リハーサル」、「本番移行」にて気をつけるべきポイント
BASIS作業の以下のステップで気を付けるべきポイントについて解説する。
3-1. テスト
「② テスト」では、「アプリとSAP BASIS共同でテスト計画の洗い出し、テストを実施すること」が重要だ。
SAP ERPは変わらなくても、インフラ、OS、DB、SAPカーネルは変わるため、動作確認は必須。特に他システムとの連携や性能面のテストは、アプリ・BASIS作業を共同で実施しないと短期間で終わらず、全体スケジュールが延びてしまう。権限やメール送信処理などの機能が盲点になりやすい。
また新本番環境を使ったリストアやDR(災害復旧)はこのタイミングで必ず手順確認と実機操作を行うべきである。
基盤が変わるがゆえにバックアップ、リストア、DRテストは必須だが、移行リハーサル以降は本番移行の準備でテストの時間を確保するのが困難になりがちだ。そこで、基盤操作に関わるテストはここでやりきることがポイントとなる。
3-2. 移行リハーサル
「④移行リハーサル」では「可能な限り本番移行時と同等の状況でリハーサルを実施すること」が重要だ。
本番と同等にすることで、曜日や時刻の固有の処理が移行作業に影響しないかを確認できる。
通常、本番移行は24時間体制となることから、BASIS作業だけでなく、アプリや顧客を含めて無理な要員配置になっていないか、また、連絡フローなどもチェックしておきたい。
3-3. 本番移行
「⑤本番移行」では「複数人が同じ移行作業を遂行できるよう準備すること」が重要である。
急病、交通障害など主担当者が作業できない状況になった場合、移行が中止となる恐れがある。リカバリ要員に手順を覚えてもらい、可能ならリハーサルにも参加させて実機操作を慣れておく。
最後に、いくら計画を入念に準備しても、想定していないインシデントは必ずと言っていいほど発生する。
プロジェクトメンバーが一体となって諦めずに強い気持ちで対応にあたることが重要だ。一体となって取り組めば、原因究明までは至らずとも、インシデント回避策は見つかりやすい。
4. クラウド基盤「CUVICmc2」を活用してSAP S/4HANA化を目指す
こうしたBASIS作業をトータルでサポートするのが、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)だ。
CTCは、20年来、SAP ERPに関わるビジネスの経験があり、特に SAP S/4HANAへのコンバージョン経験やクラウド基盤への移行、SAP S/4HANAでのアップグレード対応など、経験豊富な人材によるサポートが可能なことが大きな特徴だ。
SAP ERP システムに特化したクラウド基盤サービス「CUVICmc2」を提供し、認定コンサルタント数も業界トップクラスだ。
SAP HANAの資格取得者は2021年2月時点で71人、SysAdmin(NetWeaver、SAP HANA DB)は28人を数え、年々増加している。SAP ERP利用に最適化したCUVICmc2への移行を行っておくことで、SAP BASISからインフラまで、次の段階で実施するSAP S/4HANA化までをスムーズに完遂することが可能になる。
SAP S/4HANA化の取り組みは、準備から本番移行までにさまざまな課題に直面する。CTCのような経験豊富で、真摯に寄り添ってくれるパートナーに相談し、今できることを着実に実施していくことをおすすめしたい。