DX推進を加速できる基幹システムの実現

DX推進を加速できる基幹システムの実現

 2020年2月、SAPはSAP ERP(SAP ECC 6.0)サポート期限を2年延長すると発表しました。

 SAPの「2025年問題」は「2027年問題」となり、2年の猶予がもたらされることになったのです。

 しかしこれは単なる「アップグレードの猶予期間」ではなく、これからのエンタープライズシステムのあり方を見据えながら、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX(デジタル変革))を推進するための基盤を確立するための期間だといえるでしょう。

 それではこれからのエンタープライズシステムはどうあるべきなのでしょうか。そしてそれをどのようにして具現化すべきなのでしょうか。


▼ 目次
SAPが提示する「エンタープライズシステムのあるべき姿」
SAPが示すエンタープライズシステムの課題とは

1. SAPが提示する「エンタープライズシステムのあるべき姿」

 2020年2月にSAPが発表した「SAP S/4HANAへの移行期限の2年延長」。

 SAP ERP 6.0からSAP S/4HANAへのマイグレーションのタイムリミットは、2025年末から2027年末へと変更されました。

 この発表を受けJSUGは「この発表がSAPユーザーにとって企業のデジタル変革を遅延させるものではなく、むしろ、技術的なアップグレードに留まることなく、企業のビジネスを将来に向けてどのように準備するかをSAPとしても後押しする機会を用意してくれたものと捉えています。」と表明。
 (JSUG ニュース「SAP関連製品の保守延長の発表について」より引用 – http://www.jsug.org/news/2020/02/002228.html)

 単なるアップグレードの猶予期間ではなく、これからのエンタープライズシステムのあり方を見据えながら、DX(デジタル変革)を推進するための基盤を確立するための期間だと位置づけています。


 それでは、これからのエンタープライズのあるべき姿とは、どのようなものなのでしょうか。

 それは「デジタルコアに手を入れないシンプルなERP」が、多様なクラウドやパッケージと「外部連携する」というものです。

 これまでは業界固有機能や入力補助機能などがユーザー企業によって作成され、それがアドオンとしてERPに組み込まれてきました。これによりERPは肥大化・複雑化し、市場や会社の変化に柔軟に対応することは困難になってしまいました。またこの状態のままでは、SAPから随時提供される新機能を活用しようにも、アップデート後のシステム検証に巨額の費用がかかるため、保守切れ対応(SAP S/4HANA化後は5年ごとに保守切れ)で予算もリソースも使い切ってしまい、SAP S/4HANAへと移行しても、その良さを十分に引き出すことはできません。

 SAP S/4HANAの価値を最大化するには、「システムコアを標準で使う」ことが前提になります。

 アドオンや拡張機能はSAP Cloud Platform上で動かし、システムコアと疎結合の形で連携させるべきなのです。これにより拡張性や開発生産性、革新性の高いシステムを実現することで、システムアップデートの負担の大幅な軽減や、変化への柔軟な対応が可能になります。


SAP ERPサポート延長
図 1. コンバージョンしたSAP S/4HANAに潜在する技術的負債



 その全体像を示したのが下の図です。これはSAPが2020年2月に発表したものです。

  • DX(デジタル変革)を推進する
    • SAPを使うことで標準的に得られる果実は、SAP CP経由で「超高速」で手に入れる
    • 補完すべき業務は、SaaSやAPI、RPA 等を活用して「組み合わせて」実現する
    • 差別化を図るべき仕組みを個別で開発する


SAP ERPサポート延長
図 2. Intelligent Enterprise ソリューションの全体像




 全体の中心にはSAP S/4HANAがあり、その上にSAP Cloud Platformが置かれています。アドオンやインテリジェントテクノロジーはこのSAP Cloud Platformの中に置かれ、SAP S/4HANA自体は標準の状態で利用されます。これらに加え、データウェアハウスやアジャイルデータマートと連携したSAP Analytics Cloudや、マスターデータ統合などもSAP S/4HANAの周りに配置されています。

 つまり「これからのエンタープライズシステムは単にERPを導入すればそれで終わりではなく、多様なシステムが連携したものが全体としての基幹システムになる」というわけです。






2. SAPが示すエンタープライズシステムの課題とは

 しかしこのような「SAPが示すエンタープライズシステムのあるべき姿」には、大きく3つの課題が存在します。

2-1. SAP製品だけで十分なのか

 第1の課題は「SAP製品だけで全体を網羅できるのか」ということです。

 SAPはDXを推進できるインテリジェントなエンタープライズシステムの実現に向け、SAP S/4HANA以外にも様々な製品サービスを提供しており、そのラインアップは急速な勢いで拡充されています。

 しかしユーザー企業のなかには「この役割の製品はすでに導入済み」であったり、「ERP以外での活用も視野に、この機会に全社基盤と言えるような製品サービスを選定したい」と考えるところも少なくありません。

 ここで伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)が提示したいのが、「ユーザー企業目線でのエンタープライズシステムのあるべき姿」です。それは以下のようになります。


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図 3. CTCが考える新しい基幹システムのイメージ図




 基本的にはSAPが提示しているものとほぼ同じですが、システム全体の中心はERPではなく「デジタル統合プラットフォーム」になっており、ERPや周辺機能がすべてこれと連携する形になっている点が異なっています。

 つまりCTCは、SAP S4/HANAへと移行すること以上に、SAP Cloud Platformをどう活用するかが、これからのエンタープライズシステムを実現する上での鍵だと考えているのです。

 もちろんこの図の中にSAP製品をマッピングすることで、SAPが提示するシステムイメージを作り上げることが可能です。

 その一方で、SAP以外の製品やサービスをマッピングし、SAP製品を補完することもできます。

 つまり「すべてをSAPに統一したい」「SAPだけではなく他社製品も組み合わせたい」のいずれの要望に対しても、このシステムイメージであれば柔軟に対応できるのです。

 すでにCTCはSAPを補完できる多様な製品やサービスを提供しています。それらをこの図にマッピングすると、以下のようになります。


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図 4. 基幹システムのイメージ図にCTCの製品サービスをマッピングした例




 CTCは、InformaticaやUiPath、DATADOGなど、マルチクラウド環境に対応できるシステム統合製品を用意しており、フロントエンドからバックエンドまで統合の自動化から、基幹システムで初めてマルチクラウド環境を利用するユーザーが安心できる統合モニタリングまで、トータルで提供可能です。

 またインテリジェント化に関しては、2019年12月にウイングアーク1st株式会社への戦略的事業投資を行っており、紙帳票ソリューションを含む幅広いデータ活用支援に、積極的に取り組んでいます。

 さらに開発領域では、OutSystemsによるアジャイルなローコード開発の支援が可能です。この製品は2019年11月に、SAP OData Swaggerの取り込みが行えるようになっています。

 これらの製品やサービスは、ユーザー企業にとってSAP以外の選択肢を提供するものであると共に、SAP S/4HANAのポテンシャルを最大限に引き出す上でも大きな貢献を果たすものだと言えます。



2-2. 既存のABAPをどうモダナイズするか

 第2の課題は「既存のABAPをどのようにしてモダナイズするか」です。

 標準機能と密結合した従来型ABAPを残したまま、SAP S/4HANAへと移行することは望ましくありません。

 バージョンアップの度に発生していた莫大な検証負担がシステムアップデートへと引き継がれてしまい、システムの拡張性や柔軟性を損なってしまうからです。

 しかし、すべての既存アドオンを捨て去ることも、容易ではありません。

 必要なアドオンはそのままSAP S/4HANAでも残したい、と考えるユーザー企業は多いはずです。


 この問題を解決するために必要となるのが、ABAPのモダナイゼーションです。

 従来型のABAPをオブジェクト指向ABAPにリファクタリングすると共にOData Serviceに対応させることで、SAP S/4HANAの拡張機能開発のスタイルに合わせていくのです。


 CTCはこのようなABAPのリファクタリングを実現する手法を、独自に確立済みです。

 またリファクタリングしたABAPの単体テストを、ABAP Unitによって自動化することも可能です。

 このCTC独自サービスを活用することで、必要なABAPを捨てることなく、SAP S/4HANA化したデジタルコアに、DXに必要な拡張性や迅速性を与えることができます。

2-3. マルチクラウドのインテグレーションをどう行うか

 そして第3の課題が「マルチクラウドのインテグレーションをどう行うか」です。

 前述のようにCTCは、SAP Cloud Platformの活用こそが、これからのエンタープライズシステムの実現の鍵になると考えています。

 単にERPをSAP S/4HANAへと移行するだけではなく、システムコアを多様なシステムと連携させることが重要なのです。

 当然ながら連携先のシステムはオンプレミスだけではなく、複数のクラウド上で動くことになるでしょう。そのためSAP S/4HANAへの移行では、マルチクラウドのインテグレーションを避けて通ることはできないのです。

 この課題に対しては、CTCは大きく2つの解決策を提供しています。


SAP ERPサポート延長
図 5. SAP Cloud Platformの活用がキーだと考えている




 1つは、CUVICmc2を中心としたマネージドマルチクラウドとマルチクラウドハブ機能です。

 CUVICmc2は、SAP ERPシステムに最適化したクラウド基盤であり、安全かつ堅牢なシステム基盤を低コストで提供しています。

 またCUVICmc2は主要な他社クラウドサービスのデータセンターと直接つながっており、ボトルネックを回避した安定的な通信が可能です。

 この特徴を生かしたCTC Cloud Connectも提供しており、CUVICmc2と多様なクラウドサービスを低遅延な閉域ネットワークで安全に接続できるようになっています。


 もう1つはマルチクラウドの構築とテクニカルサポートです。

 オンプレミスを含むマルチクラウド環境の一元的な運用を行うための統合管理プラットフォーム「’CUVIC’ Managed Multi-Cloud Platform(’CUVIC’ MMCP)」を用いてさまざまな移行・構築・運用支援のサービスを提供してまいります。

 この管理基盤を用いたサービスを活用することで、マルチクラウドシステムの構築や運用の負担を、大幅に削減することが可能です。


 ‘CUVIC’ MMCPの詳細については、以下よりご覧いただけます。


MMCP

まとめ

 ここまでのポイントをまとめると以下のようになります。

  • 2020年2月にSAPが発表した「SAP S/4HANAへの移行期限の2年延長」は、単になるSAP S/4HANA移行の猶予期間ではなく、エンタープライズシステムのあるべき姿を見据えた上で、適切な対応を行うための期間である。
  • これからのエンタープライズシステムのあるべき姿は、デジタルコアに手を入れないシンプルなERPと、多様なクラウドやパッケージが外部連携するというもの。その全体像はSAPが2020年2月に提示している。
  • しかしその実現には3つの課題がある。
    • 「SAP製品だけで全体を網羅できるのか」。CTCはユーザー企業目線でのシステムイメージを作成し、SAP製品を補完する各種製品・サービスを提供することで、この課題に対応している。
    • 「既存のABAPをどのようにしてモダナイズするか」。CTCはそのための独自の手法を確立している。
    • 「マルチクラウドのインテグレーションをどう行うか」。ここでもCTCは、CUVICmc2を中心としたマネージドマルチクラウドとマルチクラウドハブ機能、マルチクラウド環境のインフラ基盤と運用支援サービスを一元的に提供する統合管理プラットフォーム「’CUVIC’ MMCP」を提供している。



 このようにCTCは、SAP S/4HANAへの移行を支援すると共に、そのポテンシャルを最大限に引き出すための取り組みを、様々な形で推進しています。

 SAP S/4HANA への移行に関するお役立ち情報については、下記よりご覧いただけます。


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