新事業開発事例に学ぶ、確実な一歩を踏み出すためのDXの進め方とは

新事業開発事例に学ぶ、確実な一歩を踏み出すためのDXの進め方とは

 遡ること2004年、スウェーデンのエリック・ストルターマン教授(ウメオ大学)はデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の概念を提唱した。


未来の基盤も支える。CTCのクラウド
出典:Information Technology and the Good Life、著作:Erik Stolterman




 デジタル技術の進化により、多くの顧客へ価値ある情報を低コストかつ高速に届けられるようになった現代、デジタルな顧客体験の向上が競争を優位にさせることに気づいた多くの企業は、既存事業の閉塞状況を打破すべくDXによる新規事業開発に挑んでいる。

 新事業開発には研究、開発、製品化、事業化、産業化という5段階のステップがあり、そこには3つの障壁があると言われている。


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図 1. 五段階のライフサイクルと 3 つの障壁
  • 研究と開発の間を横切る「魔の川」
    • 研究だけで製品開発が終わってしまい、開発まで行けなかった状況を指す
  • 製品化と事業化の間を侵食する「死の谷」
    • 製品化はしたものの、利益が得られずに事業化に失敗してしまった状況を指す
  • 事業化と産業化の間の往来を阻むダーウィンの海
    • 市場に出された製品が、競合他社との競争や顧客の反応にもまれて自然淘汰を生き残れなかった状況を指す



 これらの3つの障壁を克服して新事業開発に確実な一歩を踏み出すためのDXの進め方として、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)DXビジネス技術部 西嶋岳大はデザイン思考と5段階からなるプロセスの実践が有効であるという。

 そこで本記事では、新事業開発を目的にDXを推進されている方に向け、DX推進に役立つデザイン思考、DXによる新事業開発の事例、DX推進を支援するCTCの取り組みについてお伝えする。本記事の基となる講演動画をご覧になられたい方は、以下よりご覧いただきたい。




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(解説資料はこちら)

1. DX推進に役立つデザイン思考

 西嶋は、DXコンサルティングの経験から、DXを推進する上ではデザイン思考を養うことが大切であると強調し、下記について解説した。

  • デザイン思考とは
  • デザイン思考における5段階のプロセスとは(EDIPT)

1-1. デザイン思考とは

 デザイン思考(英: Design Thinking)とは、デザイン制作で使っている思考方法と手法、ツールを使用して、ビジネスや事業の問題を解決に活かしていくための考え方である。

  • デザイン
    • 製品やビジュアライズされた広告
  • デザイン思考
    • 課題解決のアプローチの一つ



 西嶋はデザイン思考がDX推進に適している理由について、「ダイジ」、「差」、「持続性」の3つの枠組みを用いて説明した。

  • ダイジ
    • 良い顧客体験を提供するサービスをデザインする上では、顧客に共感することがダイジである
    • 「共感」を軸にデザインする人間中心設計にこだわり続けることで、サービスの課題を発見し、アップデートできるようになる

    • DX推進担当者の創造性に対する自信が、新サービスや改善されたサービスの品質となって現れる


  • 持続性
    • 試行錯誤の継続が、良い顧客体験の提供の持続につながる



 これら一連の「顧客への共感と、創造性による差に、試行錯誤を続けるプロセス」は、デザイン思考のプロセスそのものとなる。





1-2. デザイン思考における5段階のプロセスとは(EDIPT)

 デザイン思考のプロセスには、一例としてスタンフォード大学とIDEO社が定義したEDIPTがある。

  • Empathy(共感・理解)
    • 対象となる顧客、ユーザーにインタビューを実施し、ニーズの共感・理解を深めるプロセス
    • 顧客・ユーザーの立場になった時、どのような感情と思考が生じるのか、徹底的に考える
  • Define(問題定義)
    • インタビューから得た共感・理解をもとに、顧客が抱えている問題を定義する
  • Ideate(アイディア出し)
    • 定義した問題を解決するうえで、どのような手段が有効であるかを検討する
    • 質よりも量を出すことを優先し、思いつく限り、ブレーンストーミングを実施してアイディアを絞り出す。
  • Prototype(試作)
    • アイディアを基に解決手段を試作する
  • Test(テスト)
    • 解決手段を検証、フィードバックを収集して改善する




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図 2. デザイン思考における5段階のプロセス(EDIPT)



 EDIPTのプロセスでは順次的に進めるものではなく、必要に応じて前のステップに戻ることができる。





2. 新事業開発事例|DXでワーキングマザーが抱えるストレスを解消する

 デザイン思考と EDIPT を具体的に解説する目的で、西嶋は「ワーキングマザー向けサービスの新事業開発事例」を紹介した。


2-1. ペルソナを定義 (共感・理解 : Empathy)

 サービスの利用者の特定と利用者が抱えているニーズや背景に共感する目的で、13名のワーキングマザーにインタビューを行った。

 インタビューから架空のペルソナ(サービス利用する顧客像)を定義した。

 ペルソナが抱えるニーズ・問題が下記であることを特定した。

  • 帰宅後に自分の時間が欲しい
  • 家事では、夫が頼りにならないが、なんとかしたい
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図 3. サービスを利用するペルソナ(利用者像)を定義
(13人のワーキングママにインタビュー)




2-2. 問題の因果関係の整理(問題定義 : Define)

 情報の共有と可視化を目的に、ペルソナが抱える問題「なぜ自分の時間が取れないのか」について因果関係を整理・分析した。

    • 「夫が、頼りにならない」 ⇒ 「夫の家事能力が低い」 ⇒ 「独身時代の家事と子育ては、内容が異なる」
    • 「夫への指示の出し方がわからない」 ⇒ 「役職者の経験がないため、指示の出し方が上手くない」 ⇒ 「妻が自分で対応するしかない」


 結果、「自分の時間が取れない」問題の根本的な原因は「夫への指示の出し方がうまくない」という点であると位置づけた。

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図 4. 問題の因果関係を整理




2-3-1 . アイディアの発散 (Ideate)

 サービスを具現化するためのアイディアを発散する。

 サービス価値は、ペルソナ(サービスを利用する顧客像)に時間的な余裕を提供することである。


 まず、顧客であるワーキングマザーの悩み、いやなこと(Pains)は下記である。

  • 夫に家事や育児を依頼することに気兼ねする
  • 夫に家事を任せても作業品質が低い
  • 夫の家事育児の理解度が低いため、自分で処理した方が早い


 悩み、いやなこと(Pains)に対して製品・サービスにより、どのようにして問題を解決するかという打ち手を下記の通りに仮説立てた。

  • ワーキングマザーと夫の情報格差をなくす
  • ワーキングマザーと夫のためのコミュニケーション基盤をつくる
  • 夫に気兼ねなく、安心安全に家事を依頼する仕組みの実現
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図 5. アイディアの発散と分類

2-3-2 . サービスの具現化に向けたアイディアの深掘り (Ideate)

 アイディアの具現化を目的に、サービス提供事業と顧客への支援活動に分類し、付加価値(バリュー)が連鎖するか整理・分析した。

 新事業のサービスコンセプトを「夫婦間の役割分担をアップデートし、絆を強くする仕組み」とし、サービス提供形態を下記とする。

  • 夫婦に「かぞくのレシピ」というスマートデバイス向けアプリを提供(フロントエンドはスマートフォン
  • バックエンドにクラウドサービスを活用
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図 6. 価値連鎖の整理・分析





 価値連鎖の整理・分析の結果、下記の通りに価値の連鎖が発生することを見出した。

  • ワーキングマザーが抱えていた問題解決の面
    • ワーキングマザーが「かぞくのレシピ」に夫への作業指示を入力すると、レシピが指示として夫や家事代行サービスに伝わる。
  • 夫婦の絆の面
    • 夫婦間による家事の分業により、これまでにない共感と感謝が発生
  • ビジネス面
    • 2年目以降からアプリの利用をサブスクリプションサービスとすることで、サービス提供事業者に収益が発生
    • かぞくのレシピに蓄積された夫への指示(レシピ)は、ワーキングマザーのニーズデータとして顧客企業へ販売でき得る価値のあるデータとなる



 西嶋は、「このアプリケーションには脈があると判断し、具体的な制作に入りました」と話す。




2-4. 試作、テスト、改善(Prototype & Test)

 開発した「かぞくのレシピ」の試作版(Prototype)を、実際のワーキングマザーに試用していただき、テストから得たフィードバックをもとに、アプリケーションの改善を繰り返した。

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図 7. プロトタイプの開発とテスト、フィードバック収集と改善




2-5. 事業計画の定量分析支援 (DXコンサルティングサービスの最大の特長)

 新事業を開発する際、経営者の視点としては様々ではあるが、DX コンサルティングサービスでは事業計画の定量分析の作成も支援する。

 定量分析とは下記になる。

  • いくつの契約がとれたら、儲かるのか
    • 日銀法を用い、損益分岐点を算出する
  • どのくらい利益が得られるのか
    • 予測損益計算書を作成し、いつ営業利益がプラスになるのかを予想
  • 事業価値は、投資基準を満たすのか
    • フリーキャッシュフローとNPVを算出


 「かぞくのレシピ」の事業計画を定量分析をした結果、下記の結果より本事業の投資価値があると判断できた。
  • 損益分岐点を超えるためには、2,417 契約を取る必要がある
  • NPV(Net Present Value:正味現在価値)がプラス且つ、IRR(Internal Rate of Return:内部収益率・内部利益率)がハードルレートを超える


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 西嶋は、この事例を実現したCTCのDXコンサルティングサービスとCUVIC on AWSについて詳しく触れる。





3. DX推進を支援するCTCの取り組み

 DX推進を支援するCTCの取り組みは下記の 3 つとなる。

  • DXコンサルティングサービス
  • アジャイル開発支援
  • AWS移行・構築・運用支援(CUVIC on AWS)

3-1. DXコンサルティングサービス

 DXコンサルティングサービスは、顧客体験の価値を認め、IT技術を活用した事業開発に取り組みたいお客様のためのコンサルティングサービスだ。

 具体的には、「デザイン思考」と「デザイン思考における5つ段:EDIPT」を用いた事業開発ワークショップを提供し、お客様のDX推進を支援する。

 主に下記の課題を抱えた企業にとって有効である。

  • 新技術を活用した新規事業や業務改革アイディアを具体化したい
  • 研究だけで終わらないためには、具体的な製品・サービスを構想したい
  • デザイン思考や人間中心の設計に取り組みたい
  • 試行錯誤プロセスの支援が欲しい
  • 質の高いCX/UXデザインを行いたい



 前述した「ワーキングマザー向けのサービスの開発の事例」は、本サービスを利用して実現した。


3-1-1. 特長

 コンサルティングだけではなく、プロジェクト化まで支援できる体制が他社サービスとの差になる。

 具体的には、前述した事例における「事業計画の定量分析支援」があたる。

3-1-2. デリバリープロセス

 DXコンサルティングサービスでは3ヶ月にわたるワークショップを提供する。


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図 8. DXコンサルティングサービスのデリバリープロセス



3-2. アジャイル開発支援

 アジャイル開発支援は、下記の課題を抱えた企業を支援するサービスである。

  • 既存のオンプレミス・アプリケーションをクラウドネイティブなアプリケーションに作り直したい、モダナイゼーションしたい
  • AI、Blockchain、AR/VRを使ったアプリケーションを開発したい
  • アジャイル開発チームを立ち上げて、内製化を推進したい



 新事業を継続的に成功させるためには、事業目的をその競争優位性により、持続的に達成できる構造を構築する施策群とアップデートを続ける実行力が必要である。


 CTCのDXアジャイル開発に関しての詳細は、下記よりご覧いただきたい。

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3-3. AWS移行・構築・運用支援(CUVIC on AWS)

 AWS移行・構築・運用支援(CUVIC on AWS)は、下記の課題を抱えた企業を支援するサービスである。

  • AWS への移行、構築を支援してほしい
  • AWS の運用を支援してほしい(クラウド技術者、運用リソースの不足を解消したい)
  • ビッグデータの収集と活用に取り組みたい
  • クラウド技術を最大限に活用したい



 製品・サービスを製造・販売して利益を得るためには、資金や人材などの経営資源を適切に調達・配置・育成することが、差になる。

 CTCの AWS 運用の代行支援は、企業における適切な資源配分をご支援できる。


 前述した「ワーキングマザー向けのサービスの開発の事例」のプラットフォームの整備は、本サービスを利用して実現した。

さいごに

 本書では、新事業開発に確実な一歩を踏み出すためには、デザイン思考でもってDXを推進することが有効であることを事例を示してを述べた。

 さらに西嶋は「DXコンサルティングサービスは、顧客体験の価値を高め、IT技術を活用した事業開発に取り組みたいお客様のためのコンサルティングサービスです。具体的には、デザイン思考を用いた事業開発ワークショップを提供し、お客様のDX推進を支援します。」と述べた。

 加えて「コンサルティングだけではなく、プロジェクト化まで支援できる体制が他社サービスとの差になる。具体的には、新事業計画の投資価値を定量分析する支援まで含む点である。」とDXコンサルティングサービスの特長を強調して締めくくった。

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本記事の詳細については、以下よりご覧いただけます。