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データとAIのフル活用で実現するデータドリブン経営|海外最新事例と国内トレンド
数年来、COVID‑19 やウクライナ侵攻による人の流れの停止やサプライチェーンの断絶などビジネス環境の変化に直面しています。この状況下、市場から撤退せざるを得ない企業もあれば、逆に大きく躍進する企業もあります。
明暗を分ける要素の1つとなっているのが、データとAI活用です。近年、クラウド技術の発展やAI手法の高度化により社内の誰もが簡単にデータとAIをフル活用できるような環境を構築することが可能となり、「Data and AI Democratization(データとAIの民主化)」という言葉は国内でも目や耳にすることが増えてきました。とはいえ日本のみならず世界中で米国と言えども、データとAIをフル活用している企業はまだまだ限定的であるのが現状である一方で、昨日収集したデータを可視化するだけでは不十分です。
そこで「データとAIのフル活用を実現している海外の最新事例と国内トレンド」から「進める際に課題となりやすいポイントと解決方針」「どこから着手するべきか」について、データブリックス・ジャパン株式会社パートナー・ソリューション・アーキテクトの竹下 俊一郎氏に連載コラム「データとAIの民主化シリーズ」と題して3回にわたって語っていただきます。
第1回となる今回のテーマは、データとAIのフル活用を実現している海外の最新事例や国内トレンドです。これよりデータドリブン経営とは何かをご理解いただけると考えております。
▼ 目次
1.米国疾病管理予防センター(CDC)におけるデータとAI活用
2.データとAIの促進が企業の行く末を決める
3.データとAIのフル活用を行っている海外の最新事例
4.「データとAIの民主化」を日本の企業が進めるためには
5.Data+AI Summit 2022 で発表されたデータブリックス製品最新機能
1.米国疾病管理予防センター(CDC)におけるデータとAI活用
改めまして、こんにちは。データブリックス・ジャパン株式会社の竹下と申します。
2022年5月から伊藤忠テクノソリューションズ株式会社のデータ活用基盤の構築支援サービス「D-Native」活動に関わらせて頂いております。まだご存知のない方も多いと思いますので簡単に弊社の成り立ちについてご紹介させてください。
Databricks 社は米国のサンフランシスコに本社をおく2013年に起業された未だ若い企業です。設立はカルフォルニア大学のバークレー校の研究者たちが立ち上げた会社です。その後、昨今のコンテキストで言うところのSDGs(地球温暖化対策、革新的な医療の提供、飢餓の根絶など)という地球規模の課題に立ち向かうため大量データを高速に処理しながら解決していくということも原点の一つです。それに関連した事例を一つご紹介します。
COVID-19 の状況が刻々と変化する中、米国疾病管理予防センター(CDC)は、国民の安全を守るために、連邦政府や州、市がその時々の情報に混乱することなく適切な対応が取れるような情報発信を目指しました。以下がその米国疾病管理予防センターによって公開されたダッシュボードの一例です。ここでは、 全米の COVID-19 の陽性者の数をファクトとしての可視化とその予測(薄赤色の箇所)を地域別や年齢別にブレイクダウンできる仕組みとなっています。
図1:米国疾病管理予防センター(CDC)におけるデータとAI活用
引用:データブリックス・ジャパン株式会社
<データとAI活用の目的>
- 各自治体が感染状況の見込みに応じた対策を取れるようにする
- 限られたワクチンを有効に分配・活用する
<データとAIをフル活用するための取り組み>
- 全米データを集約して毎日意思決定
- 多様なフォーマットデータを整理
- 毎日数十億を超えるイベントデータ
- 現状の可視化と予測を行い、意思決定を精緻化
当初の目的の一つは現状の可視化を行い国民に情報を開示することあります。一方で、ワクチンの数は非常に限定的であり、ワクチンをいかに有効に利用するかということも現状可視化の次のテーマでありました。しかしながら、その目的を達成するためには幾つかの技術的な課題がありました。
第1に、州ごと病院ごとにデータのフォーマットが全く異なると言うことです。いわゆるデータのサイロ化、データの品質管理に直結する部分でありますが、それらの多様なデータ形式を統一して一つのダッシュボードに統合しています。
第2に、データの鮮度です。データが数日後に届くようでは緊迫する状況下で適切な意思決定は非常に困難になります。全米での毎日数十億を超えるイベントデータをニアリアルタイムで収集できることが重要となっています。
第3に、ファクトを集めて現状を可視化するだけでは、次にどのような意思決定を行うべきか、次にどのようなアクションをすべきかについては不十分ということです。100%の精度の予測ではないにしろ「次に何が起きそうか」「明日はどうなりそうか」などを見える化することで、行動指針を定めることができます。
米国疾病管理予防センターにおいては、この仕組みをデータブリックスのレイクハウスという仕組みを利用して構築しております。レイクハウスについては連載コラム「データとAIの民主化シリーズ」第2回で触れたいと思います。
2.データとAIの促進が企業の行く末を決める
それではB2C企業はどうでしょう。インターネット企業やデジタルネイティブ企業と呼ばれる企業では、お客様と企業の接点がデータ中心ということもあり、データとAIの活用が進んでいることは、想像の範囲であると思います。
一方で、米国のデジタルネイティブでない、いわゆる伝統的な企業においても ”AIリーダー” として躍進しているケースも多くなっています。事実、ドミノピザ社ではデジタルAIへの傾注により株価はここ数年で630%も上昇していますし、ウォルマート社では多くの競合がいるなか実店舗型からEコマースを含む企業に転身、ディズニープラス社においては直近ネットフリックス社の加入者に並び追い越すというニュースもあったばかりです。
図2:デジタルネイティブでない企業も “AIリーダー” として躍進
参考:データブリックス・ジャパン株式会社
これらの “AIリーダー” 達が重要視しているデータとAIをフル活用するためのポイントを4つ挙げます。先程の米国疾病管理予防センターと共通点は多いです。
図3:B2C企業においてData + AIで解決すべき4つの柱
- リアルタイムなオペレーション 昨日のデータを可視化する、先週のデータを可視化するというのでは不十分であり、よりリアルタイムなオペレーションが求められています。リアルタイムとは、例えば、小売・流通業ではお客様の需要予測との背後にあるサプライチェーン全体在庫最適化、配送・受注・決済など分単位での意思決定がビジネスの成否を分けるような状況になっています。需要予測と在庫最適化の狂いにより膨大な機会損失が発生したり、食品ロスなどが発生したりで SDGs の観点からも改善の余地が大きいことは周知の事実です。
- より迅速により良い意思決定を データ分析のきめ細やかさが求められています。例えば米国スターバックス社では従前は不十分な需要予測を行っており、例えば、個別の店舗の違いを考慮せず予測を月単位で行ったため予測精度が低く、事実とのギャップが大きかったという問題がありました。ここで、きめ細やかな分析が重要となってきます。スターバックス社は、店舗単位・SKU単位(Stock Keeping Unit:受発注や在庫管理を行う時の、最小の管理単位)・日次単位できめ細やかな予測に取り組みました。例えば店舗Aの商品Bがいつ、どれくらい売れるかを予測します。結果、タイムリーにお客様に商品を届け、在庫の無駄をなくし既に年間数十億円のビジネス成果を達成しています。
- すべてのデータを利用して意思決定を 全てのデータを使いこなすことも求められています。言うはやすしですが全てのデータを使いこなすのは非常に難しいことです。特に直近では、米国スターバックス社もそうですが、SNSのデータ、店舗周辺でのスポーツなどのイベント情報、店舗での陳列動画や人の動き、そういったいわゆる「非構造化データ」が需要予測の精度をあげるドライバーとなっています。
- パートナーとコラボレーション パートナー企業とのオープンイノベーションも求められています。ここについては、次のセクションにおいてご紹介いたします。
図4:米国スターバックス社におけるデータとAI
引用:データブリックス・ジャパン株式会社
3.データとAIのフル活用を行っている海外の最新事例
前項にて4つのポイントをご紹介しました。具体的な概念図を用いてさらに深堀って行きたいと思います。
小売業・流通業を想像して下さい。農家で食物を生産し、供給者に輸送後、店舗に配送されます。そして消費者が店舗に訪問、もしくは家庭に商品をデリバリーします。このようにバリューチェーンの中では様々な登場人物が存在します。一方で理想的には、様々なデータとAIの命令が裏では実行されます。例えば、需要予測を行ったり、在庫最適化を行ったり、それに併せて商品の補充を行ったり、また、価格の変更やプロモーション実行により、需要予測・在庫最適化・補充の再調整が直ちに反映されることが理想です。というのは、数分の遅れが数百億の損失につながる可能性があるためです。
下記は米国のTarget社とShipt社のイメージです。Shipt社はTarget社の配送サービスを担っています。前のセクションでパートナー企業とのオープンイノベーションのお話しをしました。異なる企業体であっても円滑でセキュアなデータ共有をすることで、より迅速な意思決定ができるようになっています。
まさにデータドリブン経営と言えます。
図5:小売・流通業の事例
(多くのステークスホルダーの活動をリアルタイムで調整。
数分の遅れが数百億の損失につながる可能性あり。)
しかし、注意点が幾つかあります。ピーク対応とリアルタイム対応です。例えば、お祭りの時には需要が大幅に伸びるなど普段とは異なる対応が必要となります。その際、背後にあるデータとAIによる予測の連携が不十分な場合、お客様の要望に応えられなくなり、お客様サービスへの影響がでてしまいます。そのような状況を解決するために、ピーク対応とリアルタイム対応を データブリックスのデータレイクハウスが支えています。
それでは、レイクハウスの中では何が行われているのか、少しだけご紹介いたします。冒頭の米国疾病管理予防センターの例でもお伝えしたように、ファクトを集めて現状を可視化するだけでは、次にどのような意思決定を行うべきか、次にどのようなアクションをすべきかについては不十分ということです。つまり過去のことだけではなく、明日はどうなりそうかの予測も追加して見える化することで、行動指針を定めることが可能となります。
それを我々は、「BI + AIの世界」と呼んでいます。
BIはBusiness Intelligenceで、過去のデータを可視化するのが主な用途です。各々の部門のKPIなどを把握するなど定型的な分析が従来型のユースケースです。一方で、AIはArtificial Intelligenceで、過去から未来への分析です。また、定型的な分析よりは、非定型で毎回異なるビジネスクエスチョンに応えていく必要があります。そのために機械学習などの技術が使われます。
図6:「BI + AIの世界」の中では何が行われている?
上記のような需要予測を実施する場合でも、企業が何らかのキャンペーンを行う場合でも、「模索して計画を練る」という所から始まり、現状のデータを眺めながら、仮説を立て施策を立案するというPDCAを回すことが一般的ですが、これがBIの世界です。
一方で、この施策案を効率的に、効果的に実行するにはどうすべきでしょうか?計画を「施策に落とし込み成果を出す」必要があります。将来を予測し、顧客の反応を予測し、そのプロセスを自動化することも施策を実行しながら予測とのギャップを体感し時には修正をかけています。これがAIの世界です。
このように、BI + AIの世界には「模索して計画策定する」と「施策に落とし込み成果を出す」という2つの大きな要素があります。実際には、この過程の中で施策オーナー以外のデータチームが必要であり、双方のチームのコラボレーションが必要となります。ご参考までにデータチームの一例を記しておきます。
図7:「BI + AIの世界」の中で活躍するデータチームの一例
4.「データとAIの民主化」を日本の企業が進めるためには
前項では海外の最新事例を少しご紹介しました。
それでは足元の日本ではどうでしょうか?
- 「データレイクやデータベースを作れ、AIを作れと言われて、とりあえずデータは貯めてきたけれど」
- 「データは貯めたのだが、使い道がよくわからない、利用部門が見当たらない」
そのような声をお聞きすることも少なくありません。
現在「データとAI」の重要性を感じつつも、どこから手を付けようと悩まれている方も多いのではないでしょうか? 私自身も、そうでした。では、どうしたら取り組みの糸口や、進むべき方向を見いだすことができるのでしょう。
そこでご紹介したいのが、データブリックスのユニークなサービスです。当社では、「データとAI」への取り組みの道標を提供するツール群である「Databricks ソリューションアクセラレータ(以下、ソリューションアクセラレータ」を弊社のウェブサイト上(こちら)にて公開しています。
ここでは「何をすべきか」「どのようなデータが必要か」のみならず、その取り組みを実現していくためのプログラミングを含むテンプレートまでを、誰でも閲覧いただくことができます。データブリックスのプラットフォームを使った実装はもちろん、少し手を加えれば自身の環境でも試すことができます。
図8:データとAIのフル活用をサポートするソリューションアクセラレータ例
図9:ソリューションアクセラレータを組み合わせ、
きめ細やかなCustomer 360を作成した事例
図10:きめ細やかな需要予測の事例
引用:データブリックス・ジャパン株式会社
また、CTCのデータ活用基盤構築支援サービス「D-Native(ディーネイティブ)」を利用することで、ソリューションアクセラレータの活用のみならず、お客様のニーズに合わせて技術を組み合わせた最適なデータ活用基盤を構築することができます。
5.Data + AI Summit 2022 で発表されたデータブリックス製品最新機能
それでは最後に、データとAIの推進を強力に支援するデータブリックス製品の最新機能をご紹介いたします。毎年サンフランシスコで開催されている弊社の主催イベント「Data + AI Summit」にて、今年も多くの最新機能を発表しました。データウェアハウスでは、現状を把握するための可視化という点では有効でも、AIだけでは未来を予測することは困難です。これらの顧客の課題感を踏まえ、データウェアハウスとデータレイクを組み合わせた「レイクハウス」アーキテクチャを最適なアプローチとして提唱しています。
図11:データとAI のフル活用をサポートするデータブリックスレイクハウス
引用:データブリックス・ジャパン株式会社
そして、レイクハウスこそがベストな新時代のデータウェアハウスであるという主張がなされました。
第1に、これまで データとAI のフル活用をするためには複雑な環境構築が必要であったがレイクハウスの登場により数クリックでそのような環境を構築が可能となっています。しかも性能面でも第三者機関からの裏付けもあります(こちらをクリック)。
図12:レイクハウスこそが新時代のデータウェアハウス
第2に、Databricks Marketplaceの登場です。企業間でのデータ、データ処理、機械学習モデルを共有することで、AI/MLの社会実装が加速し、社会全体の効率化がより一層進むことを目指しています。
図13:単なるデータ共有ではなくソリューションを共有するマーケットプレイス
以上、海外事例を中心に弊社製品の新たな機能を一部ですがご紹介いたしました。もし何か気になる部分などがあればお気軽にお声がけください。
連載コラム「データとAIの民主化シリーズ」第2回ではデータとAIの利活用を進める際に課題となりやすいポイントと解決方針を明らかにしてまいりたいと思います。
□ お問い合わせ
- データブリックス: データブリックス・ジャパン株式会社 marketing-jp@databricks.com
- D-Native: 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 dsbp-contact-us@ctc-g.co.jp