クラウドネイティブ時代のITインフラ管理の新常識

クラウドネイティブ時代のITインフラ管理の新常識

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展によりアプリケーションのコンテナ化が進み、オンプレミス、クラウドを問わずあらゆるインフラ環境でシステムが稼働するようになりました。コンテナによって可搬性が高まる一方、複数に分散したシステムの一元的な管理が難しいという課題も生まれています。そこで、シスコシステムズ合同会社 Technical Solutions Architectの吉原大補氏による、複雑化したハイブリッド・マルチクラウド環境の運用負荷軽減につながるクラウドネイティブ時代の管理手法についての解説をお届けします。

クラウドネイティブ時代のITインフラ管理の新常識|Cisco Intersightとは
シスコシステムズ合同会社(シスコシステムズ)
テクニカルソリューションズアーキテクト 吉原 大補 氏
▼ 目次
コンテナの登場で加速するアプリケーションの分散化
プラットフォームに依存しない管理を実現する「Cisco Intersight」
ユースケースに対応した7つのコンポーネントを用意
クラウドネイティブの境界線をオンプレミスまで拡張
「Cisco Intersight」と「フルスタックオブザーバビリティ」
CTCのDX_LABのマルチクラウド環境でCisco Intersightを検証

1. コンテナの登場で加速するアプリケーションの分散化

 DX時代は、スマートフォン向けのアプリに代表されるように、商品の販売、サービスの提供、顧客体験の進化などが、すべてアプリケーションを中心に行われています。DX時代のビジネスモデルでは、利用する顧客のすべての活動がデータ化され、企業は獲得したデータをもとに、よりよいサービスの提供を目指します。「アプリケーションは自社の単体プログラムだけで完結させるのではなく、EC、POS、位置情報、チャット、AI、コミュニティなど、多くのサービスやクラウドと連携しながら新たなデジタル体験を提供するようになり、複数に分散配置されたアプリケーションが連携しながら稼働することになります」と、シスコシステムズの吉原氏は語ります。

 クラウドネイティブな世界において、重要な役割を果たすのがコンテナです。自由度が高く、開発効率を高めるコンテナですが、開発者はアプリケーション単位でインフラを選択するようになっています。例えば、事業部Aはオンプレミス、事業部BはAmazon Web Services、事業部CはMicrosoft Azure、事業部DはGoogle Cloudと、プラットフォームを自由に選択できます。そのため、運用の複雑化が加速しているという状況があります。

 組織内においても、開発部門はAmazon Web ServicesMicrosoft AzureGoogle Cloudそれぞれ独自の作業手順書に基づいて開発し、インフラ部門はサーバー担当、ネットワーク担当、ストレージ担当が独自の作業手順書で運用するというように、開発部門と運用部門の分断化も進んでいます。

クラウドネイティブ時代のITインフラ管理の新常識|Cisco Intersightとは

2. プラットフォームに依存しない管理を実現する「Cisco Intersight」

 アプリケーションの実行環境が多様化する中、シスコシステムズではこれらの課題を解決する新たなソリューションとして、クラウド運用プラットフォーム「Cisco Intersight」を提供しています。もともとは、シスコシステムズのサーバー製品群「Cisco Unified Computing System(UCS)」とハイパーコンバージドインフラ(HCI)製品「Cisco HyperFlex」を統合管理するクラウドサービス(SaaS)として2017年にリリースしたのが始まりです。その後、管理範囲を拡大し、他社ハードウェアも含め、現在はオンプレミスとマルチクラウドを一元的に運用管理し、アプリケーションが利用するインフラ全体をリアルタイムに可視化するプラットフォームへと進化を遂げています。

 Cisco Intersightのコンセプトは、シスコシステムズが2012年に買収したMeraki社のネットワークソリューションがベースとなっています。Cisco Merakiは、Wi-Fiアクセスポイント、UTM、LANスイッチなどのネットワーク機器を、クラウド上で一元管理するソリューションです。特に、遠隔操作でWi-Fiのアクセスポイントが管理できるため、小売業界や飲食店業界などで圧倒的に支持を受けています。

 「Cisco Intersightは、クラウドでハードウェアを管理するMerakiの思想をサーバー機器に拡張しました。ハードウェア内部のコンピューティング、ストレージ、DCネットワーク、アプリケーション、コンテナ、仮想マシン、ベアメタルのリソースまで及び、データセンターやコロケーション、工場内のエッジ、支店や小規模拠点などに置かれたオンプレミス環境のリソースをクラウドから管理します」(吉原氏)

 現在は管理対象がマルチクラウド環境まで拡大しており、Amazon Web ServicesMicrosoft AzureGoogle Cloudなどのパブリッククラウドのリソース(アプリケーション、コンテナ、仮想マシン、サーバーレス(予定))も同様に管理することができます。

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図1:Cisco Intersightで可能となる運用管理の範囲

3. ユースケースに対応した7つのコンポーネントを用意

 Cisco Intersightはユースケースに対応した7つのコンポーネントを用意しています。新たな機能は今後も追加されていく予定ですが、クラウドサービスのためバージョンアップの必要がなく、最新の機能を常に利用することができます。

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図2:Cisco Intersightを構成するサービス(出典:シスコシステムズ)
  • Intersight Infrastructure Services(IIS)
    オンプレミスのハードウェア(UCS、HyperFlex、他社製ストレージなど)を管理。主に、構築、運用、監視、障害対応の機能を装備する。
  • Intersight Kubernetes Service(IKS)
    オンプレミス環境に迅速かつ容易にKubernetes環境を構築し、その後の保守サポートも提供。ハイブリッドクラウド・マルチクラウドのKubernetes管理にも対応予定。
  • Intersight Virtualization Service(IVS)
    オンプレミス環境の仮想マシンのインベントリ管理およびリモートアクセスによる電源オン/オフ、リセット、シャットダウンなどを実行。将来的に、Amazon Web Servicesなどのパブリッククラウドや仮想マシンの運用管理にも対応予定。
  • Intersight Service for HashiCorp Terraform(IST)
    オープンソースのインフラ自動構築ツールTerraformと連携して、インフラのプロビジョニングを自動化するIaC(Infrastructure as Code)の機能。DevOpsと統合してアプリケーションデリバリーを加速する。
  • Intersight Cloud Orchestrator(ICO)
    ハイブリッドクラウド環境で、インフラとワークロードのオーケストレーション機能を提供。GUIベースのデザイナーにより、ユーザーフレンドリーな画面で簡単にワークフローを作成可能。
  • Intersight Workload Optimizer(IWO)
    インフラからアプリケーションまでのあらゆるリソースを単一のグラフとして図示し、相互依存関係を可視化する機能。可視化だけでなく推奨アクションを提示する。アプリケーションが利用するインフラリソースのパフォーマンスとコストを最適化。
  • Intersight Workload Engine(IWE)
    ハイパーバイザーをシスコシステムズ製品として提供。ライセンスコストを抑制しながら、インフラ全体の互換性を確保する。これにより、HyperFlex上のKubernetesクラスターは、Cisco Intersightからすべて管理・保守が可能になる。

 CTCは、日本のITベンダーで初めてIWEのEarly Field Trialに参加し、機能検証に着手している。

 これらにより、オンプレミスとクラウドが混在しているインフラ環境は統合管理され、アプリケーションが稼働するコンテナ環境もオープンソースのKubernetesやDockerによって標準化が実現します。


 「組織内の開発プロセスと運用プロセスが分断している課題も、インフラを表現するコードとアプリ用コードが同時に流れる自動化パイプラインによって、開発部門とインフラ部門が密に連携しながらアプリの開発ができるようになり、高頻度のコード変更も可能になります。開発したアプリケーションはインフラに関係なくどこへでも展開ができ、各インフラもプロビジョニングツールのTerraformを活用してコードでの制御が実現します」(吉原氏)

4. クラウドネイティブの境界線をオンプレミスまで拡張

 一般的にクラウドネイティブでは、コンテナ、クラウド、マイクロサービス、自動化、オーケストレーションなどの技術要素を使って、独立した小さな開発チームが自分たちの裁量でアプリを迅速に構築してデプロイし、スピード感をもって他社に差別化していくことが目的です。これはガートナーが提唱したバイモーダルITでいう「モード2」に該当します。そのインフラにはパブリッククラウドが一般的に使われています。

 一方、歴史的に信頼性が求められる「モード1」のアプリは変更は滅多にしません。そのインフラにはオンプレミスが歴史的に利用されてきました。シスコシステムズでは、移行が困難なモード1のアプリをクラウドへ無理に移さず、オンプレミスへ残す選択肢も有効である考えます。むしろオンプレミスのインフラをより有効活用する方法として、モード2のアプリ向けにもオンプレミスを提供することを提案しています。インフラにおけるクラウドネイティブの境界線がオンプレミスまで拡張することになります。

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図4:シスコシステムズが目指すITプラットフォームのイメージ(出典:シスコシステムズ)

 「これにより、プロジェクトのフェーズに応じてパブリッククラウドとオンプレミスの使い分けが可能になります。例えばサービスの立ち上げには、初期費用が安くスピードが早いパブリッククラウドが圧倒的に優位です。ところがサービスがヒットしてアクセス量やデータ量が増えると、クラウドは維持費用が桁違いに高くなります。その対策として、オンプレミスも「クラウド同様の使い勝手で」利用できるよう準備しておくことが有効です。臨機応変にインフラを使い分けることができます。インフラ管理者だけでなく、開発者もコンテナや自動化などのクラウドネイティブ技術でクラウドとオンプレの双方が利用できるのです」(吉原氏)

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5. 「Cisco Intersight」と「フルスタックオブザーバビリティ」

 クラウドネイティブ化されたアプリケーション管理において、もう1つの重要な要素に「可観測性(オブザーバビリティ)」があります。コンテナ化でアプリケーションが分散配置されるようになると、全体の可視化が難しくなっています。そこで、シスコシステムズではオンプレミス・クラウドの環境で稼働するすべての構成要素を可視化し、その動きを洞察し、最適化に向けたアクションを起こす一連の流れを「フルスタックオブザーバビリティ」として、3つのツールを提供しています。

クラウドネイティブ時代のITインフラ管理の新常識|Cisco Intersightとは

 シスコシステムズでは、インフラの物理的な広がりと構成要素を管理するCisco Intersightの機能と、可観測性を実現する「フルスタックオブザーバビリティ」の製品群により、クラウドネイティブ時代の新しい運用管理手法を提案しています。フルスタックオブザーバビリティの詳細は、こちらの記事をご覧ください。

●フルスタックオブザーバビリティに関する記事:「オブザーバビリティが実現するクラウドネイティブ環境の3ステップ|可視化、洞察、アクション


6. CTCのDX_LABのマルチクラウド環境でCisco Intersightを検証

 Cisco Intersightによる運用管理は、CTCの総合検証・研究開発施設であるTSC(テクニカルソリューションセンター)に開設された「DX_LAB」で試すことができます。 Cisco HyperFlexのサーバー上に構築したコンテナの管理も、Intersight Kubernetes Service(IKS)を使って即座に実行することが可能です。合わせて、GPUを搭載したサーバー上で機械学習のパイプラインを実装するKubeflowを用いて、AI、ディープラーニング、機械学習などのPoCや検証も行えます。

 TSCのDX_LAB環境(オンプレミス)とCTCのデータセンター間は閉域網(専用線)でつながっており、TechnoCUVIC VP(VMwareを基盤としたプライベート型)やCUVICmc2(SAP ERP特化型)といったホステッド・プライベートクラウドや、Amazon Web ServicesMicrosoft AzureGoogle Cloudといったパブリッククラウドとの連携により、マルチクラウド環境での連携やコンテナ移行などの検証も可能です。

 クラウドネイティブ時代の新しいハイブリッド・マルチクラウド環境の運用管理に向けて、TSCのDX_LAB環境をご活用ください。

 CTCの総合検証・研究開発施設TSC(テクニカルソリューションセンター)について詳しくはこちら。


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