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IaaSとは|PaaSやSaaSとの違いから導入のポイントまで徹底解説
新型コロナウイルス感染症をきっかけにしたテレワークの拡大・クラウドシフトという流れの中で、改めてIaaSについて把握しておきたいという担当者も多いのではないでしょうか。
IaaSとは、Infrastructure as a Serviceの略称で、「イアース」もしくは「アイアース」と呼ばれています。クラウドの中でも自由度が高いサービスであり、アプリケーションはもちろん、プラットフォームにおいても自由に構築することができます。
本記事では、IaaSについて分かりやすく解説していきます。
▼ 目次
・IaaSとは
・IaaSが改めて注目される4つの背景
・IaaSとPaaS・SaaSの違いを4つの視点から解説
・IaaS・PaaS・SaaSをどう使い分けるか
・IaaSの導入で抑えておくべき4つの注意点
1. IaaSとは
IaaSとは、クラウドサービスの一つで、物理的なハードウェアを購入することなく、OSやネットワークなどのインフラ環境をネットワーク上で利用できます。
クラウドサービスの中でもカスタマイズ性が高いIaaSは、アプリケーションはもちろんプラットフォーム、例えばプログラム言語やデータベース管理システムも自由に選択して構成することができます。
また、導入後の構成変更も柔軟に対応できます。サービスの利用用途やユーザー数などに合わせて、インフラの拡張や縮小、CPUやメモリなどをオプションで追加することも可能です。
新型コロナウイルス感染症によって企業の経営環境や働き方が大きく変わった現代において、IaaSは自由度が高く自社の強みをクラウド上で充分に発揮できるため、多くの企業に注目されています。
IaaSはカスタマイズ性に優れている一方で、契約すればすぐユーザーがサービスを開始できるものではありません。その理由は、OSなどのインフラ周りは用意されているものの、そこから先のプラットフォームやアプリケーションの設計・構築を自社で行う必要があるからです。
そのため、自社のシステム部門が持つ管理範囲や運用範囲が、他のクラウドサービスPaaSやSaaSと比べると大きくなります。
次に、IaaSが注目されている背景、PaaSやSaaSとの違いについて正しく理解していきましょう。
2. IaaSが改めて注目される4つの背景
IaaSが改めて注目されている背景として、以下の理由が考えられます。それぞれを解説していきます。
2-1. 業務効率化
IaaSが注目されている1点目の背景は、業務効率化です。システムを構築する際、IaaSがあればインフラをいちから用意する必要がないため、素早い導入が可能になり多くの業務を改善できます。
従来のオンプレミスのシステムでは、導入の際にインフラ周りを整えるために多くの業務が発生していました。
例えば以下の業務があります。
- ハードウェアの購入
- サーバー調達手続き
- サーバーの設置場所の調整
- サーバー構成設計(負荷分散、検証環境、BCP環境など)
- Excelシートを使ったOSやネットワークのパラメータ設計(監視プロトコル、ポートなど)
IaaSを利用すれば、物理的なハードウェアを用意する必要がなくなります。また、インフラ周りを整えるためのサーバー設計、ネットワーク設計(監視プロトコル、ポート)に関する業務も大きく削減することが可能です。
IaaSの契約時に、ベンダーから用意されたインターネットの画面上で必要な機能を選択するだけで、パラメータ設計が済むからです。
サーバーの負荷分散、検証環境、BCP対応のためにサーバー追加が必要な場合においても、どの拠点に物理サーバーを置くかなどを考える必要はありません。仮想サーバーを追加契約するだけで済みます。
また、必要がなくなったらいつでも簡単に止めることができます。必要なデータ・設定を削除し、契約解除するだけで良いからです。ハードウェアの廃棄などについても考える必要はありません。
ご参考までに、ERP システムをセキュアで安定したIaaSに移行し、運用負荷を軽減するとともに、使用量に基づいて従量課金を利用されている企業の事例をご紹介します。
2-2. オンプレミスからクラウド環境への利用拡大
IaaSが注目されている2点目の背景は、オンプレミスからクラウド環境への利用拡大です。カスタマイズ性の高いIaaSは、クラウドサービスの中でも多くの企業から選ばれています。
新型コロナウイルス感染症対策によりテレワークの普及が加速したこともあり、社外から簡単にアクセス可能で、セキュリティの高いクラウドサービスを求める企業が増えています。
また、長年オンプレミスで作り上げた自社のシステムを、クラウド環境においても同じように自由に開発したい、自社の特徴・強みを生かしたシステムを構築したいといった要望からも、IaaSを検討する企業が多くあります。
2-3. 自由度の高いシステムの構築
IaaSが注目されている3点目の背景は、自由度の高いシステムの構築です。
IaaSに近いクラウド環境として、これまでもホスティングサービスが存在していましたが、多くのユーザーにとって、月額固定料金であることや、使用ディスクやメモリの上限値が決まっていること、契約後にベンダー側での構築が始まるためすぐに利用を開始できないなど、多くのデメリットがありました。
IaaSは従量課金制であり、ディスクもメモリもオプションで契約開始後にいつでも追加可能です。また、契約すればすぐに利用開始できるという点でホスティングサービスよりも優れています。
これまでユーザーが感じていたホスティングサービスのデメリットをなくし、自由度の高いサービスを実現できていることで、IaaSへの注目が高まっています。
従量課金制のIaaSについての詳細は、以下をご覧ください。
2-4. システムの移行
IaaSが注目されている背景の4点目は、システムの移行です。
企業はこれからクラウドサービスを利用したいと思っても、そのサービスをどれくらいの期間使うかわからないため、移行に鑑みてサービスを選定する傾向が徐々に増えています。
例えば「既存のシステムサービスを他の環境に移行したい」と考えたときに、他のクラウドサービス(PaaSやSaaS)では制限があります。OSやプラットフォームがベンダー管理のため、自社で取り出せるデータやアクセス権限が限られているからです。
IaaSであれば、OS以外は自分たちで構築しているため必要なものを自分でピックアップして自由に移行できます。移行時を考えてもIaaSには多くのメリットがあり、注目されています。
IaaSへの移行方法は様々ありますが、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)が実施したIaaS移行の検証結果をまとめた資料は、以下よりご覧いただけます。
IaaSが改めて注目されている理由として 4つのメリットを解説しましたが、実は上記以外にもIaaSのメリットに加えて、デメリットもあります。
これらの解説については、以下をご欄ください。
3. IaaSとPaaS・SaaSの違いを4つの視点から解説
広く認知されているクラウドサービスとして、IaaSのほかにPaaSとSaaSがあります。
二つのサービスとの違いを以下4つの視点から見ていきましょう。
3-1. 提供されるサービスの階層が異なる
IaaS、PaaS、SaaSの最も大きな違いは、提供されるサービスの階層が異なることです。
端的に言うと、IaaSは「インフラ」、PaaSは「インフラ+プラットフォーム」、SaaSは「インフラ+プラットフォーム+アプリケーション機能」を提供します。
それぞれの違いについて、詳しくみていきましょう。
IaaSは、物理的なサーバーを自社で用意することなく、自由度の高いシステムを構築できることが最大の特徴です。プラットフォームやアプリケーションは提供されないため、自社で構築する必要があります。
運用面においては、OSの最新版へのアップデート、パッチ適用、サーバー本体のネットワーク監視などはクラウドベンダーが担います。自社のシステム管理部門は、主にプラットフォーム・アプリケーション周りの管理を行います。サーバー本体とインフラ周りをクラウドで提供してもらいたい、自社はプラットフォームから自由な構成を組みたい、というときにIaaSを選択します。
PaaSはPlatform as a Serviceの略であり(パース)と呼ばれており、インフラとプラットフォームやミドルウェアを提供します。
プラットフォームとは、アプリケーションを実行する環境の土台であり、ミドルウェアとはデータベースとアプリケーションの橋渡しをするためのソフトウェアです。
運用面においては、OSを始め、プラットフォーム、ミドルウェアに関する管理、パッチの適用などはクラウドベンダーが実施します。自社のシステム管理部門は、利用するアプリケーションの設計構築・運用管理を担当します。
土台となる実行環境はベンダーに任せたい、アプリケーションのみ自社で設計構築、運用管理したい、というときにPaaSを選択するケースが多くみられます。
SaaSとはSoftware as a Serviceの略称であり、(サース)と呼ばれています。一般的にクラウドサービスといえばSaaSである、と言われています。
SaaSは文書作成ツールやコミュニケーションツールなど、パッケージ製品として提供していたソフトウェア製品を、サービスとして提供することで、インターネットにアクセスすればすぐに利用することができます。
アプリケーションを含めた最新版へのアップデート全てをクラウドベンダーが実施するため、自社は何も意識しなくて済みます。
自社の負担はできるだけ少なく、用意された機能をすぐに利用したい、という場合にはSaaSを利用することをおすすめします。
図 1. サービス毎のクラウド基盤概要図
3-2. 自由度の範囲が違う
IaaS、PaaS、SaaSの2点目の違いは、自由度の範囲が違うことです。
IaaSはOSの種類、プラットフォーム、アプリケーションが自由に選択できるため、3つの中で最も自由度が高いと言えます。また、CPUやメモリのリソースも契約後にいつでも自由に変更できます。
PaaSはIaaSと比べると自由度は低いですが、SaaSに対しては高いと言えるでしょう。プラットフォームは決まっているものの、インストールするアプリケーションを自由に選択できるからです。
SaaSは3つの中で最も自由度が低くなります。OS、プラットフォーム、アプリケーションのすべてをベンダーが管理しており、自社が管理できるのはサービスの設定・登録ユーザー情報・登録データのみで、個別にカスタマイズをすることもできません。
3-3. 利用開始までの期間に差がある
IaaS、PaaS、SaaSの3点目の違いは、利用開始までの期間に差があることです。
一概に言い切れない部分もありますが一般論として、IaaS、PaaS、SaaSの順で利用開始までの時間が長くなります。
IaaSは、契約後に自社でプラットフォーム、アプリケーションの設計・構築を行うため、利用開始まで最も時間を要します。
PaaSはIaaSよりも短時間で済みますが、SaaSに比べると長くかかります。実行環境は整っているものの、契約後に自社でアプリケーションの設計・構築・テスト・を行うからです。
SaaSは契約後、利用ユーザーの情報登録、簡単な初期設定を行うだけで、すぐにサービスの機能を使うことができます。
3-4. 運用管理の範囲が異なる
IaaS、PaaS、SaaSの4点目の違いは、自社で行う運用管理の範囲が異なることです。
IaaSは運用管理の範囲が3つの中で一番広いと言えます。プラットフォーム、アプリケーション、OSの追加設定など、自社で構築・設定したものは全て自社で運用していく必要があるからです。
OSのアップデートやネットワークのポート監視などはクラウドベンダーが行いますが、プラットフォームとアプリケーションは自社ですべて担当します。
PaaSは、IaaSに比べると運用管理範囲は狭くなります。アプリケーションを中心とした運用・メンテナンスの管理を自社で行い、OSやプラットフォームはクラウドベンダーが担当します。
SaaSは、自社で運用管理を行う必要はほとんどありません。クラウドベンダーがアプリケーションを含めて、最新の情報に更新していきます。自社で管理するのは、自社がサービス上に格納したデータやユーザー情報のみです。
4. IaaS・PaaS・SaaSをどう使い分けるか
IaaS、PaaS、SaaS を選択するときのポイントは、自社の現状を正しく把握したうえで、どのサービスが適しているかを判断することです。
どのような業務をクラウドサービス上で実現したいのか、何の機能が必要か、カスタマイズは必要か、などを現状のシステムを元に把握していきましょう。
IaaSとPaaS、SaaSの一番の違いは自由度の高さです。自社の仕組みに合わせた自由度の高いシステムを使いたかったのに、SaaSを選んでしまい思ったような使い方ができなかった、ということがないようにしましょう。
他にも提供されるサービスの階層、利用開始までの期間、運用管理の範囲の違いを認識したうえで、どのクラウドサービスが現状の仕組みに適しているか、自社に合ったサービスを選択していくことが大切です。
5. IaaSの導入で抑えておくべき4つの注意点
IaaSを導入するにあたり、以下4つの点を押さえましょう。
5-1. 専門知識が必要
IaaSの導入を検討するなら専門知識が必要です。IaaSは他のクラウドサービスよりも自由度が高い分、専門知識やスキルを要求されます。具体的には以下の知識が必要になります。
- サーバー構成の設計
- OS設計
- ネットワーク設計
- セキュリティ対策
- バックアップ運用
5-2. 人的資源・予算の割り当て
IaaS導入には、人材資源・予算の割り当てをしっかり考慮する必要があります。なぜなら、ITに詳しいシステム管理部門の要員を確保する必要があるからです。
具体的には、OSのスペック検討、サーバー設計、ネットワーク設計、プラットフォーム、アプリケーションに関する設計、構築、システム管理・運用を全て自社で担当していきます。
また、コスト面において従量課金制のためインフラの拡張時には料金が追加となることにも注意しましょう。CPU・メモリ・ストレージ・ネットワーク監視ポートの追加など、想定される追加料金を確認し、予算確保も大切です。
5-3. セキュリティ対策
IaaSを導入するなら、クラウドサービス固有のセキュリティ対策について事前に押さえておくことが大切です。
クラウドの本体はセキュリティの高いデータセンターに構築されていますが、社外のネットワークを経由してアクセスするため、社内ネットワークに比べるとどうしても不正アクセスが起こりやすい環境になります。
インフラ周りのOSやサーバーのネットワーク監視はベンダーが行いますが、社外からアクセスできるアプリケーションへのログインID、パスワード等に対しての管理・予防対策を自社で行う必要があります。
IaaSだけではなくどのクラウドサービスにも共通していえることですが、社外ネットワークに合わせたセキュリティ対策を講じる必要があります。従来の社内ネットワークとは違った視点で対策が必要であることを認識し、対策を強化していきましょう。
5-4. ベンダーの選定
IaaS導入を検討しているなら、信頼できるベンダーを選ぶことが何よりも大切です。クラウドベンダーによって設計・構築はもちろん運用のしやすさが大きく変わるからです。
自社の重要なシステムをクラウドに構築するにあたって、提案段階・設計・構築、そして長い運用において付き合っていくため、信頼のできる相手を選びましょう。
おすすめのベンダーは、クラウド導入の豊富なサポート実績があるだけでなく、クラウド周辺のセキュリティやネットワークといったトータルサービスを提供でき、サポート体制も充実したベンダーです。
万一障害が発生した際に、実績が豊富なベンダーであれば即座に類似事例を参照し対策を講じられるため、迅速な対応が期待できます。
障害時の対応の流れも事前にしっかりと確認しましょう。信頼のできるベンダーは、自社のシステムや特徴を理解したうえで、安定した稼働のための万全なサポート体制を提供してくれます。
この他にも、IaaSのベンダーの特徴に加え、サービスを選定する際のポイントについては、以下よりご覧いただけます。
まとめ
本記事ではIaaSについて簡単に解説しました。
IaaSは、物理サーバーを用意することなく、インフラ周りが整備された環境を利用できるクラウドサービスです。
PaaSやSaaSと比べて最も自由度が高く、クラウドでも自社の優位性を高めたオリジナルシステムを構築できるため、近年多くの企業から人気が高まっています。
スムーズな構築・運用負荷の削減を実現するために、サポートが充実したベンダーに相談しながら導入を進めましょう。
また、本書で解説したIaaS、PaaS、SaaSの他に、クラウドの種類や活用形態があります。
パブリッククラウドとプライベートクラウドの違い、ハイブリッドクラウドとマルチクラウド、XaaSの解説については、以下よりご欄いただけます。