SAP、基幹システムクラウド
ライフサイエンス企業に聞く|SAP ERPをクラウドへと円滑に移行する方法
専門商社として、ライフサイエンスの研究に必要な試薬、機器、臨床検査薬などを販売するコスモ・バイオ株式会社。
SAP HANA上で稼働するSAP ERP(いわゆるSoH)をオンプレミス環境で運用してきた同社は、より安定性、可用性の高い環境を求めて2021年にCTCのSAP ERP特化型のクラウド基盤サービス「CUVICmc2」に移行した。
SoH(SAP Business Suite powered by SAP HANA)とは、インメモリーデータベースのSAP HANA上で稼働するSAP ERPの通称である。実行時間の長いトランザクション処理を、アプリケーションサーバではなくSAP HANAデータベースサーバー側で実行することで大幅に処理時間が短縮できる。
国内にSoH事例が少なく、特にSoHでのクラウドへのリフト&シフトの事例が少ない中でCTCの支援のもと、スムーズな移行を実現した。
- 課題と対策
- 課題
- SAP HANAアプライアンスのサーバー保守期限
- アプリケーションパートナーと協業体制でのプロジェクト推進
- 基幹システムの安定性、可用性の向上
- 対策
- オンプレミスでなく、クラウド環境への移行
- SAP BASISに知見を持つCTCを移行パートナーとして採用
- 高信頼性を持つSAP特化型クラウドサービス「CUVICmc2」の採用
- 課題
▼ 目次
・約1,200万品目の商品管理を支えるSAP ERPより安定したインフラへの移行を検討
・SAP ERP特化型クラウドのCUVICmc2を採用し、移行パートナーにCTCを指名
・コスモ・バイオ、IPS、CTCの3社による迅速な連携や柔軟な対応で数々の課題を解決
・システムの最新化で処理時間を短縮、クラウド化によりIT管理者の負荷を軽減
1. 約1,200万品目の商品管理を支えるSAP ERPより安定したインフラへの移行を検討
コスモ・バイオは、1983年の設立以来「ライフサイエンスの進歩・発展に貢献する」を経営理念に、ライフサイエンス(バイオ)の研究室や検査室向けの試薬や機器、臨床検査薬を国内/海外に展開している専門商社だ。
研究現場が求める、幅広く専門性の高い製品に対応するため、約600社の仕入網で約1,200万品目の品揃えを実現。約200拠点におよぶ代理店網を通じて日本全国の大学・公的研究機関・企業・病院などに多くの製品を提供している。
さらに、近年では研究機関とのパイプを活かして、研究者のニーズが高いものを自社製品として開発・製造するほか、新たな国内開発品のライセンス化なども行い、海外に販売する取り組みを進めている。
札幌事業所の外観とコスモ・バイオ オリジナルキャラクター
(左からコウタイガー、アクアペプチドン、ペプチドン)
同社のビジネスを支える基幹システムは、グループ会社間のシステム統一、顧客満足度の向上、競争力強化を目的に、SAP HANA上で稼働するSAP ERP(いわゆるSoH)を採用し、2016年に販売管理、在庫/購買管理、会計管理のシステムとして稼働させた。高速なSAP HANAにより、日々増え続ける膨大な商品群と製品情報がリアルタイムに把握できるようになったという。
この基幹システムは、社内のデータセンターに設置したオンプレミス環境上で運用されてきたが、本稼働から5年が経過し、SAP HANAアプライアンスのサーバー保守期限が2021年5月末に迫っていた。それに続く形でデータベース(DB)のSAP HANA 1.0、OSのSUSE LINUXも保守期限を迎えるため、インフラの移行とDB、OSのバージョンアップの検討に乗り出した。
情報システム部 システムユニットリーダーの澤本晃伸氏は「導入から5年間でシステムは概ね安定していましたが、システム停止で製品の出荷業務に影響を与えたトラブルが数回あったため、より安定性、可用性の高い環境への移行が求められていました」と語る。
コスモ・バイオ株式会社
情報システム部
システムユニットリーダー
澤本 晃伸 氏
2. SAP ERP特化型クラウドのCUVICmc2を採用し、移行パートナーにCTCを指名
コスモ・バイオはインフラの移行にあたって、SAP ERP移行対応が可能なベンダー数社に提案を依頼。常務取締役 総務部長 兼 情報システム部長の柴山法彦氏は次のように語る。
「ベンダーには単なる筐体変更ではなく、クラウドも含めた選択肢を用意してもらいました。アプライアンスサーバーの後継機へのリプレースとクラウドサービスを比較したところ、コスト面ではアプライアンスサーバーへの移行が優位でしたが、ハードウェアは持ち続ける限り、自社で管理し続けなければなりません。保守期限が来るたびに後継機種に乗り換えるようでは同じリスクを抱え続けることになるため、クラウドへの移行を考えました。今後のインフラ管理や更改対応が不要となれば、発展的なことにもっと時間を使えます。クラウドを採用すれば、今後の更改プロジェクトが不要になることから経営層の理解も得られました」
同社はSAP BASISの知見、SAP ERPの導入および保守運用を担当した株式会社アイ・ピー・エス(IPS)との連携性も考慮した上で、CTCが提示したSAP ERP特化型のクラウド基盤サービス「CUVICmc2」を採用し、同時にインフラとSAP BASIS(ミドルウェア)の移行パートナーにCTCを選定した。
SAP ERPに最適化されたCUVICmc2は、安定性、セキュリティレベル、実績を評価して採用された。インフラとSAP BASISの移行について、CTCの提案がわかりやすく事前に先行きが見通せたことも大きかったという。
「CTCの提案書には、スケジュールや移行方式が明記され、トラブル発生時の予備プランまで提示されていました。システム構成、移行前の旧環境と移行後の新環境もわかりやすく、イメージをつかむのに役立ちました」(澤本氏)
コスモ・バイオ株式会社
常務取締役
総務部長 兼 情報システム部長
柴山 法彦 氏
3. コスモ・バイオ、IPS、CTCの3社による迅速な連携や柔軟な対応で数々の課題を解決
移行プロジェクトは、2020年12月~2021年8月末の9カ月間で実施。コスモ・バイオの情報システム部、IPS、CTCの3社体制で取り組んだ。
コスモ・バイオとして最も規模が大きくミッションクリティカルな基幹システムの移行だったため、CTCは当初計画から移行検証兼リハーサル1、リハーサル2と計 2回の移行試行を想定し、用意周到に課題点、懸念点を潰したことが、結果として円滑なプロジェクト遂行に大きく寄与している。
2021年6月に行った移行リハーサル2で発生した不具合の解消を経て、7月の週末の2日間で、大きなインシデントなく本番移行を完了した。柴山氏は「本番移行の前後で、エンドユーザーがその変化にほぼ全く気付かない、ノークレームでの移行となったのが感慨深い」と評価している。
アプリケーションについては、開発コストと安全性を考慮して既存のSAP ERP 6.0(EhP7)を改修することなく移行する方針を固め、DB層のSAP HANA 1.0はSAP HANA 2.0、OS層のSUSE LINUXはバージョン11から15へとアップグレードしている。
またバックアップは、SAP HANAに最適化されたCUVICmc2の標準バックアップサービスを利用することにした。
移行方式は、下記を検討。
- バックアップ/リストア方式
- SAP HANA 1.0のバックアップを使用して新環境にリストアする
- エクスポート&インポート方式
- エクスポートファイルを作成してインポートする
- リビジョンアップ&バックアップ/リストア方式
- SPS(サポートパッケージスタック)を最新化した SAP HANA 1.0をバックアップして、新環境にリストアする
最終的にSAP HANAのバージョン差異を考慮して、「(2)エクスポート&インポート方式」を採用した。
検討に際してCTCから、作業時間・難易度は (1) < (2) < (3) で、(1)が採用できない場合は(2)、(2)も採用できない場合に(3)を採択すると段階的な手段選択の説明があったことが、明確な判断材料となった。
図 1. クラウド基盤への移行におけるSAP BASIS作業の3つの方式
プロジェクトは何も問題が発生しなかったわけではない。
例えば、ネットワーク回線の敷設調整が当初の想定通りにならず、データ転送方法の変更など想定外の事態にも直面したが、CTCのノウハウを活用して解決した。また、SAP HANA 1.0をSAP HANA 2.0にアップグレードする際には、資材発注量を決めるMRP(資材所要量計画)のプログラムで想定外に不具合が判明。そこで急遽、新環境にインポート後、SAP ERP側でサポートパッケージ(SP)適用しコンポーネントの一部をバージョンアップすることで解消した。
コロナ禍のため、オンライン打ち合わせ主体のプロジェクト運営を余儀なくされる中、CTCは通常時、あるいは予期しなかった・状況に際しても電話を含めた密な連携体制を保持し、データ物理搬送時には現地に駆け付けるなど、臨機応変な対応で乗り切った。そして、コスモ・バイオ、IPS、CTCの3社での強力な連携があったことで、素早いSP適用や検証、改修を実現し、周辺のシステムにも影響を与えることなく、計画どおりのスケジュールで乗り切ることができたという。
澤本氏はプロジェクト全体を振り返り、「CTCは移行リハーサルの段階で、移行の成功と失敗の定義を箇条書きでわかりやすく定義し、判断の基準を明確にしてくれました。さらにプロジェクト進行中は節目、節目で私たち情報システム部と、IPS、CTCの3者で役割分担を確認しながら進めることができたため、ストレスもなく理想的なプロジェクトになりました」と評価する。柴山氏もCTCの進行について、「私たちがこまごまとした進捗管理やプロジェクトマネジメントをする必要がないくらい完璧な仕事ぶりで、安心してお任せすることができました」と語っている。
図 2. 実施したエクスポート&インポート方式のSAP BASIS作業イメージ
4. システムの最新化で処理時間を短縮、クラウド化によりIT管理者の負荷を軽減
新環境に移行したSoHは、稼働直後から安定している。パフォーマンス面では、ユーザーの通常業務には変化はないものの、CUVICmc2基盤の高パフォーマンス寄与やSAP ERPのSP適用、SAP HANA 2.0へのバージョンアップなどにより、日中/夜間に実施するバッチ処理の時間は短縮されているという。
今後はクラウド化による耐障害性、可用性の向上とともに、ハードウェアの故障によるシステム停止の不安軽減が見込まれている。
そして、当初から見込んでいたインフラ管理業務の低減も期待されている。
「移行した直後ということもあり、目に見える運用負荷の軽減はこれからですが、今後はハードウェアの保守期限を気にすることなく、長期にわたって使っていける安心感があります」(柴山氏)
今後は基幹システム以外の業務システムも、オンプレミス環境からクラウドへ移行することを検討中で、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みを加速させていくという。
「業務部門の需要やコストを考慮しながら、CUVICmc2を含めて適材適所でクラウドサービスを検討し、移行を進めていきます。高い技術力を持つCTCとは、インフラとSAP BASISの移行プロジェクト以外でも、AIを活用した顧客向けのサービス提供などでも連携していけたらと思っています」(柴山氏)
将来の基幹システムの安定化、運用の高度化に向けては、IT人材の育成も課題となっている。
2027年に迎えるSAP ERPの保守サポート終了に向けて、今回のプロジェクトで得られたノウハウも含めて共有しながら、さまざまな選択肢を検討していく方針だ。
「基幹システムの運用管理のスキルを、情報システム部の幅広いメンバーに身に付けてもらい、誰でも基幹システムのリプレースに対応できるよう、新しい人材を育てていきます。CTCには引き続き、基幹システム全般に対する支援を期待しています」(澤本氏)
コロナ禍にあってますます注目されるライフサイエンス領域の専門商社として、成長を続けるコスモ・バイオ。同社の絶え間ない進化によって多くの製品が世の中に届けられる過程には、安定供給を支えるシステムの存在が欠かせない。
CUVICmc2の詳細については、下記よりご覧いただきたい。