世界最大のテクノロジー展示会に見る最新技術トレンド

世界最大のテクノロジー展示会に見る最新技術トレンド

 全米民生技術協会(CTA : Consumer Technology Association)は2022年1月に世界最大のテクノロジー展示会CESConsumer Electronics Showcaseの略)を主催しました。第一回目開催から55年を数える歴史あるイベントです。

 昨年のCESは完全オンライン開催となりましたが、今年は人数を制限した上で、リアル会場とオンラインでの展示が並行して行われました。

 本記事ではCESで見つけた最新の技術トレンドについて、ITOCHU Techno-Solutions America, Inc.(以下、CTCアメリカ)の川本裕子がレポートします。


世界最大のテクノロジー展示会に見る最新技術トレンド





▼ 目次
史上初となった、CESの「ハイブリッド開催」
GAFAMはオンライン参加のみ、米国に次いで目立っていた韓国勢
メタバース(最も目にしたキーワード)
電気自動車(EV)と自動運転(ソニーがEVに本格参入)
ロボティクス(多くの人の注目を集めた「Ameca」)
成長が期待されるスペーステックは意外と小規模





1. 史上初となった、CESの「ハイブリッド開催」

 私は2020年8月にCTCアメリカに赴任し、それから約1年半が経過したタイミングで全米民生技術協会が主催する世界最大のテクノロジー展示会「CES2022」に参加しました。

 当初はCTCアメリカの社員5~6名で行く予定だったのですが、1週間前に新型コロナウイルスのオミクロン株が猛威をふるうようになったため、CTCアメリカ内で協議の上、私ひとりが代表して行くことになりました。

 皆様もご存知のとおりCESとは1967年に第1回が開催され、それ以来50年以上にわたって続いている世界最大のテクノロジー展示会です。

 会場はきらびやかな観光地として知られる米国・ラスベガス。

 毎年世界の主要なテクノロジー企業をはじめとする数多くの展示が行われ、コンシューマー向け家電を中心とした最先端の製品やコンセプトが発表されています。


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図 1. CES会場入口外観(動画あり




 昨年度は新型コロナウイルスの影響で初の完全オンライン開催となりましたが、今年は2年ぶりにオフラインでも開催されることになり、史上初の「ハイブリッド開催」となりました。

 現地での感染対策はしっかりと実施されており、参加者は新型コロナワクチン接種証明書アプリの「CLEAR」への登録と提示が義務づけられ、国外からの参加者は入場前24時間以内の検査も求められました。

 また入場用のバッジを受け取る際には、抗原検査キットの無償配布も行われていました。


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図 2. 受け付け時に配布された抗原検査キット






2. GAFAMはオンライン参加のみ、米国に次いで目立っていた韓国勢

 今年度の参加企業数は2,300社以上にのぼり、その中には約800社のスタートアップ企業も含まれています。

 米国最大手のテクノロジー企業であるGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)など、出展やオフラインでの参加を取りやめる企業も相次ぎ、現地の参加者数も比較的少ないという印象でしたが、それでも興味深い展示が数多く行われていました。

 それゆえ、どこも満員といった状況ではなく、人気のある展示とそうでない展示との間で、はっきりとした差がでていたな、と感じました。


 CES主催者が発表している今年のトレンド領域は、「Transportation(電気自動車や次世代ロジスティクスなどのモビリティ)」、「Space Tech(スペーステック))」、「Sustainable Technology(サステナブルテック)」、「Digital Health(デジタルヘルス)」でしたが、「Metaverse(メタバース)」、「NFT(非代替性トークン)」、「Hybrid Work(ハイブリッドワーク)」、「Robotics(ロボティクス)」などの展示テーマも目立ちました。

 展示企業の国別の割合は米国が最も多く、それに韓国が続いていました。実際に展示会場でも韓国勢の存在感は大きく、環境保護をテーマにしたゲーム型展示やバーチャルアイドルのコンサート、次世代免税店の体験型展示には多くの人が集まっていました。


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図 3. 仮想空間内にてペンライトを振っている様子(動画あり




 今回はこれらのテーマの中から「メタバース」「モビリティ」「ロボティクス」を取り上げ、主要な展示とトレンドを紹介しましょう。





3. メタバース(最も目にしたキーワード)

 今回のCESでいちばん目にしたキーワードは「メタバース」です。インフラ、プラットフォーム、アプリ、デバイスなど各レイヤーを扱っている様々な企業でこのキーワードが掲げられており、まさに「いま最も盛り上がっている分野」なのだと実感しました。

 その中でも大きな注目を集めていたのが、QualcommとMicrosoftがメタバースに向けたARメガネ用チップの開発で、提携を発表したことでしょう。

 これは両社の基調講演の中で行われたものであり、両社の協力によって開発されたチップは、Microsoft Azureを利用したMR(複合現実)プラットフォームである「Microsoft Mesh」と、QualcommのAR開発プラットフォーム「Snapdragon Spaces XR」に、統合されていく計画だと述べていました。


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 すでにMicrosoftは2019年2月にリリースされた「HoloLens2」でQualcommの「Snapdragon 850」を採用していますが、この発表によって両社のこの分野における関係は、さらに深いものになりそうです。

 そういえば最近「Meta」に社名変更した旧FacebookのVRヘッドセット「Oculus Quest 2」も、「Snapdragon XR2」を搭載していますね。

 今回の基調講演では、メタバース対応の超高画質VRグラスの開発にも言及していたので、両社の協業でメタバースが大きく前進することが期待できそうです。


 これとは別に、ロッテのメタバース展示で担当者に聞いた話も興味深いものでした。それは「ロッテグループのすべての事業分野をメタバースプラットフォームで連携させる構想で動いている」というものです。

 これによって24時間いつでも、仮想空間で現実と同じサービスが受けられるようにしていくということです。


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図 4. ロッテのメタバース展示スペースにて仮想空間を体験している様子




 他にも数多くのメタバース関連の展示があり、大半の出展企業はまずはB2Bよりもゲームや仮想空間でのショッピングなど、B2Cでの取り組みから広がっていくだろうと予測している印象を受けました。物理世界と仮想世界をつなぐ架け橋として期待している企業も多かったようですが、「実際に何ができるのか」「何を実現したいのか」といったことよりも、言葉だけが先行しているのではないかと感じられる展示も少なくありませんでした。



 メタバースは間違いなく大きなトレンドになりそうですが、それが具体的にどのように結実していくのか、まだまだ予想がつかない部分も多く、今後の動向を注視していきたいと思っております。





4. 電気自動車(EV)と自動運転(ソニーがEVに本格参入)

 次に取り上げるのがモビリティです。ここで多く見られたのが、「電気自動車(EV)」と「自動運転」というキーワードです。

 また「快適な移動空間」の提供をコンセプトにした展示も目立ちました。

 例えばLGは、個人の生活スペースをそのまま移動できる「LG OMNIPOD」を発表。

 旭化成は「人に優しい快適な車室空間の提供」をテーマに、快適・安全・安心な未来の車室空間を具現化した「AKXY POD」というコンセプトモックを展示していました。


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図 5. 人目を惹く展示が多いモビリティスペース(動画あり




 その中でも特に注目すべきものが、大きく3つありました。第1はソニーによる「EVへの本格参入」の発表です。


 CES2022の記者発表会で、EV事業化のため2022年春に新会社「ソニーモビリティ」を設立すると発表。

 エレクトロニクス系企業のEV参入といえば、すでにAppleなどが検討を進めているようですが、OEMメーカー以外のEV参入公表は、今回のソニーが初となります。

 またこの発表の場で、2020年に発表した試作EVの第2弾となる「VISION-S 02」も披露されました。

 これは、運転席から助手席まで横長ディスプレイが広がり、その表示テーマや効果音なども自由に設定できるという、まさに「走るスマホ」といったものでした。


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 第2はBMWによる、車体の色が変わる車「BMW iX Flow featuring E Ink」です。

 これは台湾のE Ink社が開発した技術を活用し、車体の色を白、グレー、黒に変えられるというもの。

 CES2022のメイン会場である「ラスベガス・コンベンション・センター」の駐車場にあるBMWブースで展示されていましたが、白からグレー、さらに黒へと、刻々と車体の色が変わる様子には驚かされました。まるでSF映画の特殊効果のようですが、車体の色を変えることでエネルギー消費を抑制できる、といった効果も期待できるそうです。


 そして第3が、米国サンディエゴに拠点を置く中国系企業「TuSimple」の自動走行トラックです。

 この会社は完全自動運転トラックに特化した2015年創業の企業であり、サプライチェーンの最適化を目指しているそうです。

 すでに米国内に50台を超える車両を持っており、2021年12月にはアリゾナ州で80マイルの完全自動運転を成功させています。

 これは一般道路と高速道路が混在した経路での完全自動運転であり、世界初だと言います。


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図 6. 会場間移動のためにトンネルを走行する電気自動車に乗車している様子(動画あり




 この他にも興味深かったものとして、CESの複数の会場間を地下トンネルで結び、その間を電気自動車で行き来する「Vegas Loop」があります。

 これはTeslaと、イーロン・マスク氏の会社であるThe Boring Companyが行っていたもので、都市の地下を電気自動車で移動することで、渋滞などの問題を解決できると紹介されていました。

 電気自動車は排ガスがないからこそ、このようなことが可能になるわけです。

 この展示では人が運転していましたが、運転手からは、これが完全自動運転になればコスト効果をより高めることが可能になるという話もありました。





5. ロボティクス(多くの人の注目を集めた「Ameca」)

 そして最後はロボティクスです。

 このテーマでも数多くの企業が展示を行っていましたが、その中で最も多くの人の目を引いていたのが「Ameca」でしょう。

 これは「人間そっくりの表情」ができる人型ロボット。すでにAmecaの動画は世界中に拡散されているので、見たことがある方も多いのではないでしょうか。


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図 7. 最も多くの人の目を引いていたロボティクススペース




 Amecaでは顔の表情に注目が集まりがちですが、私自身が興味を持ったのは言葉の受け答えの自然さです。

 米国人の英語だけではなく、ネイティブではなかったりなまりがある英語でもきちんと認識して対応していました。

 私も「名前は?」「何ができるの?」といったことを英語で聞いてみましたが、まるで普通の人間と会話しているかのように、ごく自然に応えてくれました。

 また遠目から写真を取ろうとしていた人には、その方向を見て微笑み「カメラを向けてくれてありがとう」と言っていました。


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図 8. リアルな表情で話題のロボット「Ameca」(動画あり




 これ以外で目立っていたのは、フードテックにおけるロボティクス活用です。

 5社くらいの企業がウエイターロボット(配膳ロボット)を展示していました。

 日本企業にとっても配膳ロボットは得意分野の1つであり、すでに活用事例も増えているので目新しくはないのですが、実用レベルに到達していることが理解できました。

 ロボットが食品を運ぶのが当たり前の未来は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。

 路上を走るデリバリーロボットについては、以下の記事においても紹介しています。

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6. 成長が期待されるスペーステックは意外と小規模

 ここまでで、CES2022で目立っていた主要なテーマについて紹介しました。

 この他にも展示が多かったものとしては、「サステナブルテック」や「デジタルヘルス」がありましたが、両者ともに例年の延長で目新しいものが少ない、といった印象でした。

 また2030年に向けて成長が期待される「スペーステック」はブースが少なく、展示も小規模でした。これらに関しては来年度に期待したいと思います。


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図 9. 今後の規模拡大が期待されるスペーステックの展示ブースの様子




 CTCアメリカの社員による米国トレンドの最新記事(アメリカIT探訪 駐在員レポートシリーズ)は、以下からご覧いただけます。


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