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デジタル変革の成功の秘訣|日本企業に何が必要なのか?
日本でもその重要性が強く意識され、実際の取り組みも広がっているデジタル変革(DX : デジタルトランスフォーメーション)。
しかし海外に比べて国内の成功事例は、まだ決して多いと言える状況ではない。
何が日本企業にとってのハードルなのだろうか。
そして、それを解決するために必要なアプローチとは?
そこでデジタル変革の匠である、外資系企業でのDX推進で数多くの経験を持つ佐藤 伸哉氏と、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)でビジネスアナリストを務める西嶋 岳大に、デジタル変革を推進する企業に必要なことについて尋ねてみた。
佐藤伸哉氏(左) × 西嶋岳大(右)
- 佐藤伸哉
- 株式会社シークレットラボ
- 代表取締役/エクスペリエンスデザイナー
- Web黎明期からUXのスペシャリストとして活躍し、2008年からソニー全体のニューモバイル戦略などを担当。2012年に株式会社シークレットラボを設立。その後もAKQAやボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、EPAM Systemsなどに参画しながら、大手企業のプラットフォーム戦略やデジタル戦略のアドバイス、事業改革の支援、プロダクト開発のデザイン支援などを手掛けている。
- 株式会社シークレットラボ
- 西嶋岳大
- 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
- ITサービス事業グループ クラウド・セキュリティサービス本部 クラウドビジネス戦略部
- エキスパートエンジニア(ビジネスアナリスト)
- 外資系IT企業3社でITコンサルタントとして活動し、30代前半でMBAを取得した後、CTCに入社。プライベートクラウドの企画開発、ハイブリッドクラウド案件のITコンサルタント、AWSのプリセールス兼コンサルタント等を担当した後、現職。上級職としての専門性を活かし、日本企業のDX推進を支援している。
- 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
▼ 目次
・PoCレベルで終わるケースが多い日本企業のDX
・当初の目論見とは異なる内容が多い海外の成功事例
・適切な知見にもとづき高速に試行錯誤することがダイジ
・不足しているスキルは社外パートナーとの対等な協業で
1. PoCレベルで終わるケースが多い日本企業のDX
Q 1-1. ここ数年は日本でもDXの重要性を叫ぶ声が高くなっています。実際のところ日本でのDXは、どのような状況だとお感じになっていますか?
佐藤 確かにDXに着手する日本企業は増えていますが、具体的に何をやればいいのか、わかっていないのではないかと感じられるケースが少なくありません。そのためPoCはやってはみたものの、そこから生まれる新しいサービスは、まだ少ないですね。
西嶋 本来DXはITを活用することで、新しい顧客体験や顧客価値を生み出すという取り組みです。しかし日本では、現在提供しているサービスにITで何かを足して付加価値を付けよう、というアプローチが多いと思います。本業の強みを活かすというアプローチで、否定はしませんが、環境変化への対応や弱点の克服にはならないです。
Q1-2. まだ本来のDXとして、成功している事例が少ないと。そのような状況になっている理由はどこにあるのでしょうか?
西嶋 ひとつは根源的なアイディアが少ないことです。日本企業の発想は既存事業の枠内にとどまってしまうことが多く、事業構造そのものを変化させるアイディアがなかなか出てきません。本業にしっかり取り組んで成果を出すというのは日本企業のいい文化ではあるのですが、これが破壊的アイディアの創造を阻害している。特に長年にわたって本業を成長させてきた経営層やマネジメント層は、双発的なディスカッションが苦手で、この傾向が強いようです。
佐藤 もうひとつ考えられる要因は、取り組みを持続できる組織体制が十分にできていないことです。せっかくいいアイディアが出てきたとしても、それが実を結ぶまで継続できる企業は決して多くありません。そもそもDXでは何が正解なのかわからない状況から始まるものであり、しばらくは利益が出ないまま取り組みを進めていく必要があります。そのため経営層の強いコミットメントがないと、体力が続きません。特に大企業では小さいチームでPoCを行った後、本業を持つ事業部が引き継ぐことが多いのですが、この段階でストップするケースが目立ちます。
西嶋 事業部の責任者としては、利益が少なく、既存組織の能力がフィットしない新ビジネスの責任を取りにくい状況ですね。
佐藤 その通りです。事業部内での意思決定には限界があるので、組織横断的に動ける人が必要です。もちろん日本でも組織横断で俯瞰できる組織は存在します。ただそのような組織が実行力をもっていないケースが一般的ですね。
西嶋 「DX推進」のような組織ですね。
佐藤 そう、「推進」だけではだめで、実働部隊が必要なのです。このような組織がないと、外部との連携もなかなかうまくいかない。実行力を持たせるには、ある程度の規模も必要です。そうでなければ必要なリソースを確保できません。
2. 当初の目論見とは異なる内容が多い海外の成功事例
Q2-1. 海外ではどのような状況なのですか?
佐藤 成功事例を見ると、本業から離れてゲリラ的に行われるケースが多いと思います。
西嶋 海外企業ではゲリラ的に動きやすい企業文化もありますね。皆さんもご存知のグーグルの「20%ルール(*1)」のように。
佐藤 人事評価の内容も日本とは異なっていますね。成功事例を生み出している企業では、社外活動が評価対象になるケースが多いように思います。そのため社外との連携で新しいものを生み出しやすい。
*1. “自分の業務時間の20%までは、通常業務ではない仕事に使うことができる制度”のこと。Gmail や Googleマップ などのサービスも、このルールから生まれたと言われています。
Q2-2. やはり企業文化の違いが大きいと?
佐藤 もうひとつ注目したいのは、当初の目論見とは異なる内容で成功しているケースが多いということです。たとえばある航空会社では、もともとはどこから着手すべきか難航していたチケット予約アプリを作るためのプロジェクトが、顧客の観察やヒアリングを繰り返した結果、顧客自身がバーコードを活用してロストバゲージ管理ができるサービスに行き着き短期間で提供したというケースがあります。そこからデジタル技術の適用領域が拡大し、事業のDX化が進んでいきました。
Q2-3. 日本企業がこれからDXを成功させていくには、何が必要になるとお考えですか。
佐藤 まず試行錯誤が認められる企業文化を作ることです。先程申し上げたように、海外では途中で方向転換を行うことで、当初とは異なる形で成功するケースが数多く存在します。
西嶋 それに加えて、ある程度の規模の組織を作り、そこでメンバーの取り組みを保護することも必要だと思います。既存事業のしがらみから離れた組織を作り、そのトップのしっかりとしたコミットメントのもとで取り組みを進められる体制と予算がないと、試行錯誤もなかなか進まないのではないでしょうか。
佐藤 そうですね。そのような組織のトップが「自分事」としてコミットすれば、成功しやすくなると思います。実際にDXはスタートアップの方が成功しやすいのですが、それは全員が「自分事」として取り組んでいるからです。
西嶋 これができれば、実は大企業の方がリソースや実行力があるので、成功につながりやすくなるでしょうね。
3. 適切な知見にもとづき高速に試行錯誤することがダイジ
佐藤 DXに関する誤解を解いていくことも重要です。そのひとつが、過去の成功事例と同じプロセスをたどれば成果を出せる、という考え方です。こう考えれば安心なのはわかりますが、それゆえに失敗するケースが多いのです。また新しいアイディアを出すと言うと「ワイガヤ」を思い浮かべる方も多いのですが、これも誤解のひとつです。個人の発想や強い想いを起点にしなければ、他の人といくら話をしてもいいアイディアは生まれません。
西嶋 最近ではDXのためにデザイン思考を学ぶ人が増えていますが、ここでも誤解している人は多いようです。ほとんどの人は1つの手法を学んでそれを活用しようとしますが、実際にはDXに取り組む場合は、デザイン思考以外にも様々な手法が存在します。状況を見極めてうまくフィットする手法を選択しなければならないのです。
佐藤 形式ばかりに意識がいってしまい、その本質を十分理解しないまま使われるケースは確かに多いですね。
西嶋 本質を理解するには、繰り返し取り組むことも重要です。1~2回やって失敗したので終わりというのでは、先には進めません。デザイン思考も他の取り組みと同じように、何度もサイクルを回していく必要がある。試行錯誤を繰り返していくことで、はじめてうまく使えるようになるのです。また、組織の価値観が変わるまで、なかなか成功しない場合もあります。
佐藤 それはデザインスプリント*2 も同じです。ステップ毎に何をすべきかが提示されていますが、実際には自分たちのプロジェクトに合わせてカスタマイズし、アウトプットを出し続ける必要がある。数をこなさないとセンスが磨かれていかないのです。ただし十分な経験を持たない人が独自のやり方で取り組んでしまうと、なかなか成功しません。例えば、独自プログラムと称して期間が3か月や半年もあるスプリントを行っているケースがあるのですが、これはすでにスプリント(短距離走)とは言えません。きちんとした知見のある人と組むことが重要です。
*2. Googleがサービスやプロダクトの改善、アイデア創出のためにまとめた短期集中型のプロダクト開発フレームワーク
Q3-1. 適切な知見にもとづいて、試行錯誤を繰り返せる体制を作るべきだと?
佐藤 そうです。それも高速に試行錯誤を行うことが重要です。アイディアだけではDXは実現できません。実際に手を動かしてものを作っていかないと、それが実際にどのような価値を提供できるのかが評価できないからです。そのためにはデジタルに関する十分なスキルがあり、自分で手を動かせる人に参加してもらう必要があります。
4. 不足しているスキルは社外パートナーとの対等な協業で
西嶋 ただ日本の一般企業では、このようなデジタルスキルを持っている人を確保するのは簡単ではありません。海外ではユーザー企業が数多くのエンジニアやデザイナーを抱えているのに対して、日本ではほとんどの場合、社外ないし社外のさらにその先にいるからです。本来であれば社内で教育を行うべきなのでしょうが…。
佐藤 そのような人材は社外に求めればいいのではないでしょうか。このDEJIMAのようなスペースを活用して、様々な経験や知識、スキルを持った人々と、気軽に共創することこそが重要だと思います。
Q4-1. 必要な人材をすべて社内で確保する必要はないと?
佐藤 そうです。実際に海外の成功事例の多くも、社外パートナーを積極的に活用しています。社外の人員が、パートナーとして実行部隊に長期的に入っている、というケースも珍しくありません。
西嶋 DEJIMAがそのような出会いの場になれば、CTCとしても嬉しいですね。
佐藤 ここで重要なのは、一緒に取り組む社外の人々を「下請け」のように扱わないことです。「自社にないスキルを社外から取り込む」といった「上から目線」ではなく、あくまでも「対等の立場で一緒に取り組む」というスタンスで協業すべきです。コラボレーションというのは、本来そういうもののはずです。ベンダーではなくパートナーです。海外の成功事例ではこのスタンスが貫かれているように感じます。
Q4-2. DX推進には社外との対等なコラボレーションと、それを推進できる企業文化や組織体制が欠かせないのですね?
佐藤 そして失敗を恐れないことも重要です。スタートアップも9割、7割は失敗に終わります。DXには失敗がつきものですが、守りの姿勢のままでは先に進めません。
西嶋 CTCでは佐藤さんのシークレットラボと共同で、DX推進方法に関する事業開発ワークショップも開催しています。このようなサービスも積極的に活用していただきたいです。
佐藤 そうですね。ぜひとも適切な知見にもとづいて、攻めの姿勢でDXに取り組んでいただきたいと思います。
対談後記
佐藤氏と西嶋氏の対談を経て、DX を成功に導く上では下記の 2 点が必要であることを改めて痛感した。
- 国内企業に必要なコト
- ベンチャー企業のような攻めの姿勢でDXに取り組む必要がある
- 高速でビジネスアイディアの試行錯誤が出来る文化と人材が不可欠
- プロフェッショナルとアントレプレナーシップの両方が必要
- 企業がDXを成功させる為には、手法だけでは足りない
- メソッドを知り尽くしたファシリテータと、アイデアを自分事として絞り出せる本気度が高いDX推進メンバーがそろって初めて実践できる
この他にも、DXを成功に導く上で意識しておくべきメソッドがある。
その一部は、以下の資料から確認できるため、DXの推進を取り組む方、或いは推進している方は、是非ともご覧いただきたい。