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アメリカ駐在生活を通じて触れるDX
DXやIT活用の形が今後どうなっていくのか、ITに関わる人であれば強い関心を持っているはずです。
その未来を見通す上で参考になるのが、米国の動向だと言えるでしょう。
そこで、ITOCHU Techno-Solutions America, Inc.(CTCアメリカ)で活動するBusiness Development Managerの藤原康人が、米国におけるテックトレンドをレポートします。
▼ 目次
・スマホなしでは成り立たない日常生活
・街なかでよく見かけるフードデリバリーの自律走行車
・すでに当たり前のように存在する電気自動車とチャージスタンド
・カスタマージャーニーを変革するガソリンスタンド業界
・データ分析やITを活用した社員教育にも積極的
・日本とは異なる形で進む米国のDX
1. スマホなしでは成り立たない日常生活
私は現在、米国西海岸にあるCTCアメリカで仕事をしています。渡米したのは2020年10月。
米国での生活はまだ1年余りですが、こちらでは様々な形でDXが進んでいることを、生活の中で実感しています。
そこでまずは私が日常生活の中で見つけたものを、いくつかピックアップしてご紹介します。
まずはこの写真を御覧ください。一見すると日本でもよく見かけるマンションドアと同じように見えますが、実はこれ、スマホアプリで解錠できるドアロックです。
図 1. 米国では当たり前になったスマートロック
日本では「スマートロック」と呼ばれ少しずつ浸透しつつあるもののまだ物理的な鍵が一般的で、先進的なマンションでもカードキーどまりですが、米国ではすでにスマホアプリに対応したドアロックが当たり前になっています。
マンションの入口から自分の部屋まで、全てアプリで管理されています。
図 2. 左)室内空調アプリの画面キャプチャー / 右)ワクチンパスアプリの画面キャプチャー
アプリで管理されているのはドアの鍵だけではありません。
室内の空調もアプリ経由で利用します。
また、新型コロナウイルスのワクチン接種を証明する「ワクチンパス」もアプリで確認できます。
これは日本でも始まりつつあるようですが、米国ではこのように「スマホがないと生活ができない」という状況になっています。
2. 街なかでよく見かけるフードデリバリーの自律走行車
次に私が路上で撮影した写真を御覧ください。歩道の上にある白い物体は、フードデリバリーの自律走行ロボットです。
図 3. 街中でよく見かけるフードデリバリーの自立走行車
撮影したのはサンフランシスコにほど近いマウンテンビューという街ですが、ここでは路上で待機しているデリバリーロボットを頻繁にみかけます。
フードデリバリーといえば日本でもUber Eatsなどの利用が一般的になっていますが、こちらでは人による配達からロボットによる自動配達へと、その形が大きく変わりつつあるのです。
これ以外にもニュースでは、ドミノ・ピザの自動配送ロボットの映像が放映されていました。
これは「Nuro(ニューロ)」と呼ばれる自律走行型電気自動車で、自動配送車両スタートアップのニューロ社と提携して実現したものです。
すでにヒューストンでピザの配達を行っているということです。
このようなフードデリバリー車に加えて、道路状況の調査を目的としたデータ収集用の自律走行車もよく走っています。
マウンテンビューでは1週間に数回の頻度で見かけるので、Googleストリートビューの撮影車よりも目にする機会が多いのではないでしょうか。
このように米国では、実証地区における自立型のデリバリーサービスが、すでに街なかで始まっています。
またウォルマートでは、2021年11月からドローンによる自動配送を開始しています。
これは最終的に、全米3000店舗に導入する計画だと聞いています。
この領域は間違いなく、日本よりも進んでいますね。
3. すでに当たり前のように存在する電気自動車とチャージスタンド
自動運転に関係する話を続けると、こちらではテスラの車を当たり前のように見かけます。オフィスの駐車場には必ずと行っていいほどテスラ用のチャージ機(充電機)が設置されており、私が住むマンションにもテスラ用のチャージスタンドがあります。
図 4. 自宅マンションに設置されているテスラ用のチャージスタンド
こちらで聞いた話によれば、賃貸住宅の住民がチャージ機を設置してほしいと要望した場合、オーナーは協力する必要があるのだそうです。
一軒家でもチャージ機があるのが一般的です。
図 5. 一軒家に設置されているチャージ機
その一方で、有料サービスとして提供されているチャージスタンドも存在します。これを利用する場合には、運営企業が提供する専用アプリを使用します。
アプリにユーザー登録してチャージすると、クレジット会社経由で請求されるようになっているのです。
チャージサービスを提供する企業は複数存在し、アプリも企業毎に異なっているため、複数のチャージ用アプリをインストールしておくのが一般的です。
このように電気自動車も、すでに日常生活に溶け込んでいます。この点もかなり進んでいるな、という印象です。
4. カスタマージャーニーを変革するガソリンスタンド業界
電気自動車がこれだけ普及していれば、ガソリンスタンドの経営にも大きなインパクトを与えることになります。
ここからはガソリンスタンドの経営戦略の変化や、具体的な取り組みをご紹介しましょう。
まずガソリンスタンドの今後の収益源の割合は、以下のように変わっていくと予想されており、ガソリンスタンドに小さなコンビニが併設される形態は30年以上前からありましたが、現在では小売がガソリン販売額低下を補完する、重要な柱になっているのです。
- 2014年までのガソリンスタントの収益源割合(北米)
- ガソリン販売が90%
- 付帯サービスが10%
- 2019年までのガソリンスタントの収益源割合(北米)
- ガソリン販売が50%
- 付帯サービスが15%
- 小売りが35%
- 2029年までのガソリンスタントの収益源割合(北米)
- ガソリン販売が20%
- 付帯サービスが40%
- 小売りが40%
小売が収益の大きな柱になったことで、ガソリンスタンドの集客戦略も変化しています。
また、ガソリンスタンドがチャージスタンドを併設するケースも一般的になったため、チャージ時間をどう埋めるのかも重要になっています。
そこで最近では以下のようなカスタマージャーニーを前提に、集客戦略を立案するのが一般的になりつつあります。
まず顧客はスマホで近くのガソリンスタンドを探します。ガソリンスタンドの情報はスマホアプリで知ることができ、そこでクーポンなどを入手することも可能です。
ここで給油・充電するガソリンスタンドを決定すると、モバイルによる先払いを行います。
ガソリンスタンドに到着すると、顧客は給油や充電を行います。時間のかかる充電を行う場合には、ガソリンスタンドに併設されたレストランや小売店で、飲食や買い物を楽しみます。
その体験の評価はSNSに投稿されます。
また一度来店した顧客に対しては、ガソリンスタンドからパーソナライズされた提案が行われると主に、クーポン提供などの再来店を促す施策が実施されます。
5. データ分析やITを活用した社員教育にも積極的
このようなカスタマージャーニーを実現していくには、当然ながら顧客に関するデータ分析が欠かせません。
これについても積極的に取り組みが行われています。
例えばあるガソリンスタンドチェーンでは、Microsoft Azure上にデータレイクを構築し、IT部門以外の従業員でも自由自在にデータ分析できる環境を作り上げています。
ここではデータ分析のユーザーが600人を超えており、その多くはITやデータサイエンスのスキルを持っていない人だそうです。
また来店データやアプリでの行動データ、購買データだけではなく、店舗で撮影された映像の解析も行われています。
例えばガソリンスタンド内でタバコをもってうろついている人がいれば、この映像解析ですぐに検知されるようになっています。
もちろん店内での顧客動線も分析可能です。
顧客体験を向上させるには、データを活用した施策に加え、従業員の管理や教育も重要です。ここでもITが積極的に活用されています。
興味深いのは、クラウドベンダーに再生可能エネルギーを提供し、そのバーターとしてコンピューターサービスの提供を受けている国際石油企業も存在することです。IT企業とWin-Winの関係を確立することで、DXを加速しているわけです。
6. 日本とは異なる形で進む米国のDX
このように米国では、日本とはかなり異なる形で、DXやIT活用が進められています。
これは新しいことへの許容度が高い米国ならではの姿だと言えますが、いずれは日本にも波及していくでしょう。もちろん日本の方が進んでいる領域もありますが、DXに関しては米国の動きに着目することで、未来を見通しやすくなるはずです。
CTCアメリカの社員による米国トレンドの最新記事(アメリカIT探訪 駐在員レポートシリーズ)は、以下からご覧いただけます。